彼とわたしの漂流日記    Castaway On The Moon  
 原題:キム氏漂流記 김씨 표류기(キムシ ピョリュギ)<2009>

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名作

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自殺が失敗に終わり、漢江(ハンガン)のパム島に不時着した男。死ぬのも容 易ではないので、ひとまず島で生きてみることにする。

砂浜に書いた「HELP」が「HELLO」に変わり、無人島の野生人生も住めば都だと感じる頃、匿名のメッセージが入ったワイン瓶 を発見し、彼の人生は、未知の希望でときめき始める。

自分の狭くて暗い部屋が、全地球であり、世界である女。ホームページ管理、一日万歩駆け足、彼女だけの生活リズム。

唯一の趣味である月の写真撮影に熱中していたある日。漢江の島で見知らぬ人間の姿を発見し、彼にリップルを付けてあげることにする彼女。3年ぶりに自分の 部屋を抜け出し、恐ろしい速度で彼に向かって疾走する。

日本公式サイト: http://hyoryu-nikki.com/
【予 告編】
監督 イ・ヘジュン <2006>ヨ コヅナ マドンナ、<2009>キム氏漂流記

出演

チョン・ジェ ヨン

出 演作品一覧
チョン・リョウォン 出演作品一覧

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【レビュー&ネタバレ】
2009年5月韓国公開。観客動員数は、約73万人。
このビミョーな数字.......
スター俳優出演作でないということを考えれば、まずまず無難な映画、という程度でしょうか。
駄作まではいかず、しかし、物足りない。

数字から見ると、そんな感じですが、
moca的には、メチャクチャおすすめなんですけど(笑)

この映画を、コメ ディーと期待してしまった方は
ガッカリされるのではないでしょうか。

mocaは、この映画の良さは、”笑い”にあるのではないと思います。
コメディー映画としては、ひじょーに厳しい。

この映画は、どちらかと言えば、”名作”と、いいますか、
とても、映画らしい映画です。
その視点で観てもらえれば、笑いドコロも、けっこうあるかなぁ?と、いう感じです。
コメディーを期待してしまったら、退屈な映画になってしまうと思います。

インターネットが普及し始めた頃、インターネットを題材にしたラブストーリーが制作されました。
1996年の【ハル】、1998年の【ユー・ガット・メール】など。
1996年に制作された【ハル】は、今までにない革新的な映画だと好評を得た映画です。
まだまだアナログな時代に、インターネットというデジタルな世界を通じて繰り広げられる、
せつないラブストーリー。

この映画は、その逆をいく映画です。
このデジタルな世の中に、ア ナログな手法で心を通わせて いく男女の物語。
この映画の魅力は、そこにあると思います。
ラストでは、【ハル】を彷彿させるような、温かなぬくもりを感じることでしょう。
この心地よい余韻を感じられた方にとっては、お気に入りの映画になることと思います。
「映画を観た」という、実感を得られる映画です。
近頃、このような映画がなくなってしまったように思います。
いわば、ちょっと懐かしさを味わえる映画なのかもしれません。

また、主人公に感情移入できるかも、大きなポイントかもしれませんね。
主人公二人は、いわゆる、”社会不適合者”
男キム氏は、 多額の借金を抱え、自殺をするが助かってしまった自殺未遂男。
女キム氏は、 顔の醜いケロイドが原因で、3年間を部屋の中で過ごしてきた引きこもり女。
この二人の心情に共鳴できずに、映画に入り込めない方もいるかもしれません。
ただ、”社会不適合者”になってしまうのは、本人に問題があるのか、世間に問題があるのか、
この二人を見ていれば、この世の中が、あまりにも”冷たい世界”なのだと、感じるかもしれません。
二人は、純粋で、心優しい、善良な人間です。
それ故に、”社会不適合者”という結果を招いてしまったのです。
その二人が、アナログな手法で、少しずつ交流を深めていく過程は、心を和ませてくれます。

この急がしく、冷たい世界を生きるうちに失ってしまったものを思い出し、
世界観が変わるかもしれません。
少し立ち止まって、本来人間に必要なものを思い出すことも、大切なこと......
人間にとっての幸せとは......
この映画から、何かを得ることができるかもしれません。

毎晩、月の観察写真を撮るのが趣味という女 キム氏
その理由は、「月には誰もいないから、孤独を感じない」のだと。
他人がいるから、自分は孤独なんだ。
誰もこの世界にいなければ、自分は孤独ではないのに......
同様に、孤島での生活を満喫し始めた男 キム氏
「自室」という孤島に閉じこもる女キム 氏
「パム島」という孤島に閉じこもる男キ ム氏
「閉ざされた空間に閉じこもること」は、決して、「孤独」ではない。
だけれども、寂しい.......
だから、女キム氏は ネットの世界に、自分の居場所をみつけ、
男キム氏は、 しゃべらないアヒルのボートや、カカシに話しかける。
人はやはり、一人では生きていけない。
人を孤独にさせるのも他人であり、その孤独を埋めてくれるのも、他人である。

閉ざされた世界に閉じこもった二人の男女。
その閉ざされた世界からみつけた、1つの希望。
二人が希望をみつけた瞬間、心が揺れ動かされます。

韓国での映画界を支える観客層の中心は、学生を中心とした20歳前後の若者たちです。
それを考えると、この映画がヒットしなったのも仕方ないかもしれません。
デジタル時代にどっぷり浸かった若者には、この映画の良さはわからないかもしれません。
この映画は、社会生活を生き抜いて来た人たちにこそ、価値のある映画のように思います。

一言で言えば、シュールな名作。
コメディーではなく、ユニークな映画。斬新で、新鮮。完成度も高し。

誰にでも秘密がある のような構造で、
まず男キム氏の 物語で始まり、女キム氏の 物語に続き、
そこで男キム氏の 物語が、女キム氏の 側面から描かれ、展開されていくというスタイルです。
一度観て、もう一度観直すと、また新たな面白さを味わえます。

そして、この映画にかける二人の俳優の意気込み!
「映画のためなら、ルックスなんて!」
美男美女である二人の俳優は、この映画のために”醜く”変貌を遂げました。
特にチョン・リョウォン!
元々スリムな体型であるのに、”1日1食程度”で生きている引きこもりを演じるため、
過酷なダイエットにチャレンジ。
あまりにも痩せすぎたため、以前の可愛らしさがなくなってしまったとの多くの声が聞かれた。
この役作りに対する女優魂。
某ソン嬢にも、見習ってもらいたいものです。

 
【男キム氏】
自殺未遂男
チョン・ジェヨン
【女キム氏】
引きこもり女
チョン・リョウォン
 
【出前持ち】
パク・ヨンソ
【女キム氏の 母】
ヤン・ミギョン
【男キム氏の 父】
イ・サンフン

この映画は、主人公二人以外は、ほんの端役しか登場しない。
それ故、ほんの端役である【出前持ち】さえも、圧倒的な存在感を感じる。
ドラマ【魔王】や、少年は泣かない過速スキャンダルなどで、端役出演しながらも、
その独特な個性でオーラを放つパク・ヨンソ。
この映画では、最高の持ち味を発揮しております。
韓国では、”出前”は、原則的には、”どこへでも配達します”、ということらしいです。
ドラマ【天国の階段】でも、チェ・ジウとシン・ヒョンジュンが、漢江の市民公園に
ジャジャン麺を配達してもらってましたよね。
しかし、この映画ではハンパではない!
漢江の孤島、パム島への配達!
出前持ちは、アヒルのボートを借り、
「くっそ!なんで俺が!」と、文句タラタラで、ひたすらボートを漕ぐ姿は、笑いが止まりません。
男キム氏に 出前を届けた場面でも、ユニークなキャラクターが際立ってます。
そして、女キム氏に、 出前を返しに行く場面でも、笑いの連続。
「お二人とも、せつないですねぇ.....」
その一言には、彼だからこそ出せる味が光ってます。

そして、女キム氏の 母には、特別出演のヤン・ミギョン。
一瞬の出演でありながら、圧倒する存在感を放っております。

そして、いわゆる”チャン・ジン組”のイ・サンフ ン。
My Son~あふれる想い~で、大好きに なってしまい、ほんの一瞬の出演ですが、嬉しくて仕方ありません。



ちなみに、男キム氏が 漂流し打ち揚げられたパム島は、
10年間、自然生態系保全地域で、一般人の立ち入りは一切禁じられている島。
しかし、この映画のため初めて、パム島への立ち入り、撮影が許可されたそうです。


この映画に出てくる言葉、【リップル:리플】は、韓国語で"reply"を意味します。
"返信"のことですね。
そして、誹謗中傷の返信のことを、【悪:악)+리플】で、【アクプル:악플】と言います。


ストーリーですが、思 いっきりネタバレしますので、ご注意を!!

漢江の橋に佇む一人の男。
電話から聞こえる声は.....

貸付元金が、7500万ウォン。
未納を含め、総額2億1030万8千ウォン。

男は答える。
「全てを確認し、確実に勇気が出ました。
ありがとうございます」と。

「では、よい一日を。
無利子で安心。ハッピー&キャッシュのチェでした」
相手は電話を切る。

(悪徳サラ金に騙されたようね)
男は、キム氏
覚悟を決めると、橋の上から身を投げる。




しかし、キム氏の覚悟も虚しく。
どこか、陸へと打ち揚げられてしまう。





目覚めたキム氏は驚愕する。
「ここはどこだ?」
鬱蒼と茂る茂みに囲まれた見知らぬ場所。
しかし、目の前には見覚えるのあるソウルの街並みが広がっている。



キム氏は、携帯電話の電源を 入れるが、
水没して、電源が入らない。


キム氏は、力を落とす。
「俺は、死ぬこともできない愚か者だ。
63ビルなら、確実に死ねたのに」
目の前に見える63ビルをみつめるキム 氏



キム氏は、とにかくここから 立ち去ろうと立ち上がる。
しかし、行けども、行けども、広がるのは茂みばかり。
「島だ!」
キム氏は、 ここが島であることに、ようやく気づく。




西江(そがん)大橋の下に位置するパム島だった。
パム島は、生態系保全地域の為、一般人の立ち入りが禁じられている。
そう、ここは孤島の無人島。


キム氏は、仕方なく、そこで 一晩過ごす。





そして、希望の光が!
目の前を遊覧船が通り過ぎて行く。
キム氏は必死に叫び、手を振る。
「ここに人がいます!助けてください!」と。
乗客の一人がキム氏に 気づくが、
キム氏の 声は全く届かず。
乗客は、挨拶しているのかと解釈し、
手を振り返す。
「違う!助けてくれ!こっちへ来い!」
キム氏は 叫ぶが、虚しくも船は遠ざかって行く。






絶望の淵に立たされたキム氏
だが、諦めない。
砂浜に、大きく「HELP」と、文字を書く。


そして、乾燥させていた携帯電話の電源を入れる。
「電源が入った!」
キム氏は 喜ぶ。しかし、バッテリーが切れそうだ!
慌ててキム氏は、 110番に電話する。
「今、無人島のような場所に閉じ込められている。
漢江にあるでしょ?島が!」
キム氏が 必死に訴えても、警察は本気にしない。
「早く、そこから出てください」
そう言って、電話は切られてしまう。
うろたえるキム氏
今度は、元カノのスジョンに電話をかける。
しかしスジョンは、冷たく電話を切ってしまう。

頼みの綱が切れた......

そこへ、1本の電話が.....
キム氏は 慌てて電話に出る。
しかしそれは、携帯電話会社のSKテレコムからのキャンペーンの知らせだった。
キム氏は 相手が話すことを遮る。
「緊急事態なんだ!無人島のようなところに閉じ込められている!助けてくれ!110番してくれ!」
キム氏は 必死に訴えるが、バッテリーが切れ、通話は途切れてしまう。
愕然とするキム氏




最終手段。
キム氏は、川岸まで泳いでいくことを決意する。
「大丈夫だ、きっとやれる」
自分に言い聞かせ、奮い立たせる。
しかし、キム氏は 溺れてしまい、必死に島に戻ってくる。

キム氏の 頭の中を、走馬灯のように駆け巡る。
リストラされ、転職も失敗し、無職の身の自分。
そして、恋人スジョンからは「疲れた」と、別れられ、
返すあてもない、途方もない借金が残っている。
生きていて、意味があるのか?


キム氏は、首を吊ることを決 意する。
そこへ、緊急を知らせるサイレンと放送が流れてくる。
年に2回の民間防衛訓練。非常警戒警報が流される。
国民は20分の間、訓練のため避難しなければいけない。
キム氏は 悩む、防衛訓練が終わるまで待つべきか。
しかし、ネクタイに首をくぐらせる。
死ぬ覚悟を決めるキム氏
しかし、足場にした石を蹴る勇気が出ない。
しかも、腹をくだしてしまい、死ぬどころではなくなる。
茂みに隠れ、用を足すキム氏
すると、前の前にサルビアの花が......




サルビアの花の蜜を吸うキム氏
その甘さに感激してしまう。
「まるで、100年ぶりにサルビアを吸ったようだ」と。
(韓国では、よく「100年」という例え話をしますね)
次から次へと、蜜を吸うキム氏
「甘い、涙が出るほど.....」
そしてキム氏は、 慟哭し始める。
今、自分が置かれている、切羽詰った状況への悲しみが、溢れ出してしまう。








泣きつくしたキム氏は、考えを改める。
「死ぬことは、いつでもできる」
そうして、近くに生えているキノコを食べてみる。
「毒に当たって死ぬなら、それもいいだろう」と。
幸か不幸か、キノコに毒はなかった。

火に当たりながら、財布の中身をさぐるキム氏
住民登録証も、もう必要ない。
クレジットーカードも、全て止められている。
ゴールドカードだから、何だっていうんだ。
キム氏は、 カードを次々と放り投げる。



キム氏は叫んでみる。
「おーい!本当に見えないのかー!」
しかし、答えが返ってくるわけもない。
頭に血が昇ったキム氏は、 とんでもない行動に出る。
ズボンとパンツを脱ぎ捨て、フルチンのまま叫ぶ。
「オイ!これが見えないのか!これ!これ!」
と、腰をフリフリさせて叫ぶ。




こりあえず、ここで生きてみることにしたキム氏
砂浜に打ち上げられたゴミの中から、
使えそうなものを集めまわる。











そして、スゴいものをみつけた!
アヒルのボートが、島に打ち上げられていたのだ。
キム氏は、ボートを必死に運ぶ。

年利6%、住宅積立7年。
ようやく、念願のマイホームです。
そうしてキム氏は、アヒルのボートを住処にする。
「僕は、ただのみにくいアヒルの子」だと。


そして、キム氏のサバイバル生活が始 まる。

鳥を捕まえようとするが、あえなく惨敗。
仕方なく、食べ飽きたキノコで腹を満たす。





今度は、棒の先にフォークをくくりつけたモリで魚を突くが、
これまた、あえなく惨敗。

またもや、吐きそうなほど食べ飽きたキノコで、
空腹を満たす。


鳥の巣に、卵をみつけたキム氏
しかし、木に登れず、またもや惨敗。
もう見るのでさえウンザリなキノコをむさぼる。








今度は、切れ端(日本でいうブルーシート)に穴を開け、
網で魚を捕獲する作戦に出る。
しかし、またもや惨敗....

キノコも、もうイヤだ.....

キム氏は、 卵を得ようと、意気込んで木に登るが.... 
顔に鳥のフンをかけられ、惨敗.....




そんなある日。
拾った洗剤で髪を洗っていると、
目の前に、魚が浮かんでいる.....
驚愕するキム氏





念願のタンパク源!
しかも、苦労することなく手に入れたご馳走だ。
キム氏は、 至福の時を味わう。


そして、幸運は続くもの。
今度は、食い散らかした魚の骨に誘われた鳥が、
そのまま死んでいた。




ご馳走、ご馳走、鳥の丸焼きを手に入れた!

魚より、鳥の方が美味いです。
進化というのは、もしかしたら......
美味くなる過程なのかも.....

キム氏は、 そんなことを考える。
魚を食べ、鳥肉を食べ、満足しきったキム氏
退屈だ.....
もう、望むものがない。
完璧な退屈だ.....
キム氏は、 この"退屈"という贅沢を堪能していた。



ドアには、南京錠。
昼間でもカーテンの引かれた暗い部屋。
壁には、月の観察記録写真。
積み上げられたホールコーンの缶詰。
そして、ゴミの山。
部屋の中では、汚れきったコンバースを履き、
額には、醜いケロイド....

女は、中毒のように、ミニホムピィ(韓国では、ブログよりも
cyworldのミニホムピィが人気があります)を、片っ端からクリックしていく。

女は、キム氏


キム氏は、他人のサイトに UPされているシャネルのサンダルの画像を自分のパソコンに保存し、
自分のサイトに、あたかも自分が買ったように掲載する。
「昨日デパートで買ったの。可愛いでしょ」
キム氏は、 満足げに、ニヤリとする。

あえて、外に出る必要はありません。
数回のクリックで、自分のものになるのだから。







気に入った服もアクセサリーも、
クリックして保存し、サイトにUPすれば自分のもの。



顔だって同じ。
気に入った写真を掲載すれば、それが自分の顔。




ネットの中では、全てが思い通り。
それが、自分の人生。

これが真実か嘘かは、関係ない。
それを決めるのは、リプル(리플)だけだから。
実際、ネットの中でのキム氏は、 皆の羨望の的だった。

なりたい人生があるなら、会員登録さえすればいい。
キム氏の母は、出勤前に声を かける。
「必要なものはない?」
するとキム氏は、 メールで「牛乳」と送信する。
ドアの向こうからは、「わかった」と、母の声。
キム氏に とって、他人との交信は、全て文字だけだ。

3年目、部屋の中だけで成し遂げる生活。
この生活にも、厳然な規則は存在します。

起床は、아빠が出勤した8時。
キム氏の寝床は、クローゼットの中。
起床すると、コンバースに履き替え、部屋に出る。


朝食は、ホールコーンの缶詰。
172カロリー。


そして、9時までに、万歩計に3000歩を刻む。


そして9時。出勤。
パソコンに向かい、サイト巡回。

昼食は、インスタントーラーメンを砕き、
ガリガリ噛みながら済ませる。
525カロリー。

消化するまで、万歩計に6000歩を刻む。
しばらく風に当たった後、
再びパソコンに向かい、新たな人生設計をし、自身の開発にまい進するというキム氏



退勤後は、趣味の時間。
月の写真を撮る。
なぜ月の写真を撮るのか、
月には誰もいないから。
誰もいなければ、孤独ではないから。

そして寝る前、万歩計の残りの数字を刻む。
健康維持のためではありません。
万歩を満たせば、一日懸命に生きたと錯覚するから。
あまりにも健全な現実逃避。
そして、아빠が帰宅する9時に就寝。
就寝というよりも、催眠です。
キム氏は、 催眠のビデオテープをセットし、横になる。
今日一日をクリアするように、消去するような催眠。
明日一日が、新しく再生する催眠。
一日一日を充実させる方法です。
レッドゾーン。
「春に1度、秋に1度、年に二度、その日がやってきます。
いよいよカウントダウンです」
ソワソワして落ち着かないキム氏
「緊張せずに、冷静に....」
キム氏は、 フルフェイスのヘルメットを被り準備する。
一気にカーテンを開けるキム氏
まぶしい光が差し込んでくる。
そして、市内中に響き渡るようなサイレンの音。
民間防災訓練。
「1年に20分だけ、
この瞬間だけは、世界は、誰もいない月と同じです」
キム氏は、 カメラの望遠レンズを構える。


誰もいないソウルの街。
気分が月の重力のように、1/6に軽くなる。
世界が、このまま止まってしまえばいいのに。
1/6くらい軽く生きられるように.....

その瞬間、ファインダーは思わぬものを捉える。
砂浜に書かれた「HELP」の文字。
「外界生命体の信号です!」
キム氏は、 慌てて付近をくまなく見回す。




すると、ちょうどキム氏が首を吊ろうとしてい る瞬間だった!
キム氏は、 驚いて腰を抜かす。
見てはいけなかったもの....


(そう、防災訓練のサイレンが鳴ってたわね.....)

キム氏は、慌ててカーテンを 閉じ、
クローゼットに閉じこもり、
今日一日をクリアにするため催眠ビデオを再生する。
しかし、少しもクリアされない。

私は悪くありません。
早く忘れなければなりません......
レッドゾーン
自殺を止められないことが、
まるで自分の罪のように思えてしまうキ ム氏

キム氏は、 いてもたってもいられなくなり、
望遠カメラで、パム島を覗き込む。

キム氏は生きていた!
「生きてた!生きてた!サンキュー!サンキュー!」
キム氏は、 心から安心し、喜ぶ。



しかし、キム氏は、とんでもない行動 を取る。
そう、パンツを脱いでのフルチンだ。
「見えないのか!これ!」
と叫んでいたが、見ていた人間がいたのだ。
キム氏は、 そうとも知らず.......

異常な.... 外界生命体です......
キム氏は、 衝撃のあまり、何も手につかない。


翌日から、キム氏キム氏の観察に熱中してい た。



必死にアヒルのボートを運ぶキム氏を見て、
キム氏は ファインダー越しに、
アヒルのボートを指で押してやる。


そしてある日。
砂浜の文字は、「HELP」から、「HELLO」に変わった。



キム氏は、パム島での生活を 満喫していた。
傘をゴルフクラブに、松ぼっくりをボールにしてのゴルフ。
「ナイスショット!」
キム氏は、 一人ゴルフを楽しむ。




しかし、思いがけないことが起きる。
またもや遊覧船がやってきたのだ。


以前は必死に救助を求めたキム氏
しかし今回は、遊覧船が通り過ぎるまで、身を隠してしまう。
キム氏は、 「とりあえず、ここで生きてみよう」ではなく、
ここでの生活を、満喫し始めていたのだった。




そして、ふと足で踏んだ感触に何かを感じる。
インスタントジャジャン麺の袋。
その袋の中から、ソースの袋だけが出てきたのだ。
12グラム.....
その重さに、キム氏は 圧死しそうになる。





寝ても、覚めても、ジャジャン麺のことばかり。
夢の中でまで、ジャジャン麺にうなされる。
ジャジャン麺が食べたい....

このソースの粉を、風邪薬のように飲んだら、
風が治るように、欲望も消えるだろうか....
「いや、ダメだ!」
そんなことでは、ジャジャン麺への欲望を満たされない。
小麦粉までは望みません....
キム氏は、付近に生えている実のついた植物を集め、
粉にすりつぶし、こねてみる。
しかし、ドロドロの液状になってしまい、
とても麺になどならない。
キム氏は、 全身の力が抜け、動けない。
ふと気づく。
「鳥が実を食べ、消化されずに排出されたら?」





キム氏は、アヒルのボート に、その名案を自慢する。
そして、ボートについた鳥のフンを、
以前、放り捨てたクレジットカードで、削げ取る。
「久々にカードを使おー」
と、浮かれながら、フンを掻き出すキム 氏





「フンだー!フンだー!」と、両手をフンまみれにし、
喜ぶキム氏


そして、ペットボトルで、手作りのサンダルを作るキム氏

欲望が、人間を賢くするようです..... と。



畑を耕し、鳥のフンを種として蒔き、
達成感と希望で満ち溢れるキム氏




そして、汗まみれになった自分の体を舐めてみる。
「しょっぱい......」
キム氏は、 その久々に味わった味覚に衝撃を受け、
自分の体中をベロベロと嘗め回す。


首を吊ろうとして、結んだネクタイ。
キム氏は、 ネクタイを見上げる。

キム氏は、 自分の服をカカシに着せ、
ネクタイまで結んでやる。

まるで友達のようにカカシに接するキム 氏








ジャジャン麺を口にする日を夢見て、
今日もジャジャン麺の袋を眺めるキム氏。
そこには、「希望小売価格」の文字が.....
キム氏は、 「小売価格」の文字を指で隠し、つぶやく。
「希望.....」

そんなキム氏の様子を、キム氏は今日も観察してい た。



手には、昼食用のインスタント麺が.....
いつものように、ボリボリと噛み砕くキ ム氏
しかし麺は、いつものインスタントラーメンではなく、
キム氏が 毎日眺めているジャジャン麺になっていた。


壁には、月の観察写真に加え、
キム氏の 観察写真が加えられていた。
「私の部屋の窓を通して見られる、
外界生命体さんの、ミニホムピィです」
キム氏は 語る。

あなたは恥ずかしがりやで.....

(遊覧船から逃げていただけ)

汚物が大好きで......

(麺作りの発明に、浮かれていただけ)
冒険が大好きで.......

(卵が食べたかっただけ)


完全なる異常者です。

(あははははは!)


地球のジャジャン麺のことを、とても心配しています....

(食いたいだけ)


カカシと会話するキム氏

この孤独な外界生命体と.......



理解しあえるでしょうか......
キム氏は、 悩む。

地球の外へ出なくては....
NASAの助けなく、可能でしょうか?
たった一度だけです。目を閉じ、たった一度だけ........
60億の地球人たちを代表して、
外界生命体のメッセージに、リップル(리플)を
付けてあげます......
そして、写真の中のキム氏の 人差し指に、
自分の人差し指を合わせてみる。

(ETとの交信ですね)






キム氏は通販でワインを購 入。
その空き瓶に、メッセージを入れ、ボトルメッセージを作る。

そして、フルフェイスのヘルメット。
身を隠すための、レインボーカラーの傘を持参し、
パム島までのルートを地図で調べ、出発する。


おもちゃのゼンマイを巻き、エレベーターを待つキム氏
そしてエレベーターがやってくると、
おもちゃだけをエレベーターに乗せ、
自分は一気に階段を駆け下りる。

エレベーターが1階へ到着し、ドアが開く。
降りてきたのは、ゼンマイ仕掛けのおもちゃだけ。
守衛のおじさんは訝しがる。
キム氏は、 その隙にマンションから出て行く。









キム氏は、空き瓶をパム島目 掛けて、
思いっきり放り投げる。



しかし、砂浜のメッセージは、相変わらず「HELLO」だ。



キム氏はガッカリする。
あんなに勇気を振り絞ってリップル(리플)したのに......

読んでないのか?
読んだのに、答えないのか?
それすら、わからない。
そして、それから3ヶ月後──

キム氏は、無人島生活にすっかり慣れ、
馴染んでいた。

魚を捕らえるのも上手くなり.......



木登りも、お手の物。
新鮮な卵で作る、目玉焼き。






魚には、自分の身で作った塩味をつけ、
汗をかけば、その汗を目薬の小瓶に溜め込む。


そうして....
ある日、ようやく畑から芽が出ているのを発見する。
喜びも、ひとしおだ。


そしてキム氏はようやく発見する。
ある日、いつものようにゴミの中から使えるものを探している最中、そこだけ、光の色が違うことに気づく。
上を見上げると、ワインの瓶に光が反射していたのだ。
キム氏は、 ワインの瓶を拾う。
中に何やら入っている。
中の紙を広げてみるキム氏
しかし、何もない。
よく見ると、隅に小さく「HELLO」と、書かれていた。







思い悩むキム氏
あの手紙は、いったい何なのだろう?
まさか、自分宛ではないだろう...?
でも、俺宛としか考えられないよな?
キム氏は、 カカシに相談する。

ということは、誰かが確実に、
俺のことを見守っていたということだ....
そう気づいたキム氏は、
カカシに履かせていたズボンを脱がし、自分が履く。
そして、ハっとする。
「異常者? サイコ?」

キム氏は 悩んだ末、砂浜の文字を書き換える。
3ヶ月と17日です。

待ちに待ったキム氏か らのリップル(리플)に、
キム氏は 喜びのあまり、腰を抜かしてしまう。

キム氏からのリップル(리 플)は、

HOW ARE YOU?

そして、手を振るキム氏

キム氏も、写真の中のキム氏に手を振り返す。


たった一度だけ....
そう言っていたキム氏
しかし、あまりの嬉しさに、リップル(리플)を返さずには
いられなかった。
またもや、同じ手でマンションを抜け出すキ ム氏

キム氏との初めての交流によ り、
キム氏の 中で、何かが変わっていっていた。
画面と、音響が、順次生き返ります....
光の下、咲く花の美しさと、呼び寄せられる蝶の美しさ、
そして、虫のさえずり.....
今までキム氏が 忘れていたものに、
心を動かされる。








翌朝、キム氏は必死にワイン瓶探し に熱を上げる。
そして、みつけた!
中には、キム氏へ のリップル(리플)が......

FINE, THANK YOU  AND YOU?

手紙は、間違いなくキム氏へ の手紙だったのだ。
感激するキム氏



そして、キム氏からのリップル(리 플)に、
キム氏は、 あまりの嬉しさから、
久しぶりに笑顔を見せていた。



キム氏からのリップル(리 플)は、
FINE THANK YOU だった。

「こういうのを、国際ペンフレンドっていうのかなぁ?
そのうち気になりだして、想像したりして....
相手が誰か知らない時が、一番いいんだよな。
相手が何者か?そんなことが重要か?」
キム氏は 嬉しくて、カカシ相手に話が止まらない。




そして、更に嬉しいことがもたらされた。
カカシの後ろに、とうもろこしが育っていたのだ。
「とうもろこしだ!とうもろこしで麺が作れるじゃないか!」
キム氏は、 感無量だ。


キム氏は考えていた。
キム氏を 喜ばせたかったのだ。
この喜びを、形にしたかった。
勇気を振り絞って電話する。


キム氏の家に中華店の出前持 ちがやってきた。
キム氏は 顔を合わせないように、
ドアの隙間から、1万ウォンのスピョ(小切手)を差し出した。


出前持ちは、アヒルのボートを借りて、
パム島へ向かう。
「何で俺がっ!くっそ!」
と、文句たらたら、必死にボートを漕ぐ。




「あのぉ....」
出前持ちが声をかけると、キム氏は コソコソ隠れてしまう。
「ジャジャン麺を頼まれた方ですか?」
出前持ちは声をかける。
キム氏は、 コソコソ顔を出す。
「ほんとですよ、ある女性から注文がありました」
出前持ちは告げる。





出前持ちは、頼まれたジャジャン麺を取り出す。
ジャジャン。
カンジャジャン。
三選ジャジャン。
三種類のジャジャン麺に、キム氏は目を丸くする。

出前持ちは淡々と語る。
「ほんとですよ、どこでも配達するのが原則なので。
でも、今回は苦労しました。器は... 使ってください」
そう行って、去ろうとする。
キム氏は 出前持ちを呼び止める。
「その女性は、どんな方ですか?」
キム氏は 尋ねる。
「僕だって見てみたいですよ、いったい、どんな女性なのか」
出前持ちは、呆れたように去って行く。
キム氏は、出前持ちを呼び止 める。
ジャジャン麺を持って帰ってくれと.......


キム氏と出前持ちが何やら話 しているのを、
キム氏は、 不安そうに眺めていた。

出前持ちが、ジャジャン麺をキム氏のマンションへと届け にやってくる。
声をかけても、チャイムを鳴らしても、応答がない。
「もう、俺は知らん!」
と、ヤケクソになって帰ろうとした時、
ドアが少し開き、キム氏が 顔を出す。
「あの人、何か言ってたでしょう?何て?」
キム氏は、 落ちつかなそうに尋ねる。
「お二人、ほんと切ないですね....」
出前持ちは呆れる。
「伝言を頼まれました。
俺にとってジャジャン麺は、"希望"だと」
そう言って、出前持ちは去って行く。

(パク・ヨンソが、ほーんと、イイ味だしてるのよね!)
キム氏は、ジャジャン麺の香 りを嗅ぐ。
「"希望..." 100年ぶりに聞いた言葉です。

男が送ってきた、この巨大な希望を頂くことにします」
キム氏は ジャジャン麺を食べる。
「確かに、希望の味です... 本当に」

(「本当に...」の言葉と同時に、割り箸の袋の店名が....
진짜루[ 本当に ] の意味。細かー/笑)
キム氏から受け取った"希望 "により、
キム氏の 中で何かが変わる。

「必要なものは?」
出勤する母が、キム氏に 尋ねる。
いつものようにメールを送ろうとするキ ム氏
しかし、考え直す。
ドアを開け、顔を出すキム氏
「とうもろこしを育ててみようと....」
3年間、顔も出さなかった娘の突然の行動に、
母は呆然とする。
「と、とうもろこし?」
母は尋ねる。
「必要な種や植木鉢を買って」
キム氏は 伝える。
「わ、わかった。엄마が、買ってくるわ」
娘の変化に、母は感無量で、涙をこぼす。


ぜんまい仕掛けのおもちゃ。
その中に、キム氏仕 様が仲間入り。

キム氏は、キム氏に、どうしても気持ち を伝えたくて、
雨の中、リップル(리플)を返しに出かける。
翌朝、キム氏は、ボトルメッセージ をみつける。

I AM SORRY

それを見たキム氏は、 「Me too...」と、微笑む。








キム氏は、詫びの言葉の代わ りに、
キム氏を 楽しませるリップル(리플)を返した。
ありがとう.... の気持ちも込めて....

鮫に襲われ、逃げ惑うコミカルなリップル(리플)。
キム氏は、 心から楽しむ。



そして、待ちに待った収穫。
様々な野菜や穀物などが収穫された。

キム氏は、 とうもろこしを潰し、粉にし、麺を打った。
缶詰のふたを包丁代わりにし、麺を切る。
麺を茹で、この時のために大切にしていた
ジャジャン麺のソースをかける。
そして、ジャジャン麺の袋の見本を見まねて、
盛り付けるキム氏

(あの時、サービスのたくあんは返さなかったのね?)










ジャジャン麺を味わうキム氏
感無量で、嗚咽しながらジャジャン麺を味わう。


キム氏の様子を見ていたキム氏は、
「コングラッチュレーション」と、つぶやく。

その夜、キム氏は、なかなか寝付けな かった。
キム氏は クローゼットの中から出て、
久しぶりに部屋の中で眠ることにする。
すくすくと育っている、自分のとうもろこしの苗を見つめ、
安らかに眠るキム氏

CONGRATULATIONS( ' 0^ )

翌朝、キム氏か ら届いたリップル(리플)を読み、
胸を打たれるキム氏






キム氏は、電源の入らない携 帯電話を取り出し、
英語で意味のない会話を始める。
そして、「I .....」と、言葉に詰まる。
キム氏か ら送られてきたボトルメッセージの入っていた
ワインボトルを眺めるキム氏
「I .... want to see you... (あなたに会いたいです)」と、
見えないキム氏に 向かって、語りかける。
「Who are you?」
キム氏は、 せつなくキム氏に 語りかける。

自分の幸せを祝ってくれるのも、
自分に笑いかけてくれるのも、
キム氏、 ただ一人だ.....

キム氏は、キム氏のそんなせつない気持 ちも知らず、
穏やかな目覚めを迎え、
安らかな気持ちで、とうもろこしの苗に水をやり、
そして、キム氏の 様子をカメラで覗いた。

そこには、驚愕する言葉が.......


WHO ARE YOU?

その言葉を見た途端、キム氏の 心は激しく乱れた。
本当の自分を知らない相手。
その相手が、まさに自分の中に踏み込んできた。

キム氏はまた、取り憑かれた ように、
ネットの中を巡回する。

そして、自分の最もお気に入りの女性の顔を
プリントアウトする。
キム氏は、プリントアウトし た手紙を入れたボトルを投げようとするが、どうして も投げることができなかった。







キム氏は、必死にキム氏からのリップル(리 플)を探す。
しかし、いくら探しても、
キム氏か らのボトルはみつからない。
「なんでだー」
キム氏は、 対岸に向かって叫ぶ。
リップル(리플)が返ってこない理由がわからない......


why?

キム氏は、 リップル(리플)に書き加える。


それを見たキム氏は、カメラの電源を 切ってしまう。




そして、以前の世界へ戻ろうと、
久しぶりに自分のサイトを開く。
しかし驚くことに、そこは、アクプル(악플)の嵐。
今までの賞賛の言葉はどこに行ったのか.....
真実がバレたのだ。
キム氏が 他人のサイトからコピーした写真を、
あたかも自分のもののように紹介していたことが。
「どこかで見たことあるように思ったんだ」
「あの写真自体、怪しかった。捨てちゃえ!釣られたよ」
「IPを追跡して正体を暴こう!哀れな女!」
「殺してやらねば、こういう奴らは!!」
「盗用された人は迷惑でしょ?」
「死ね!」
凄まじい、アクプル(악플)の嵐。
い くらスクロールしても、出てくるのはアクプル(악플)だけ。
仕舞いには、「いい写真ありがとー もらってくねー」
今度は、「퍼가요(もらって行く時のマナーの言葉)」ばかり。

自分の計画した自身の開発が、壊された.....
キム氏は、 ショックで、自分をコントロールできなくなる。
「忘れなきゃ」
催眠ビデオを再生するが、なかなか心を安定することができない。
一方キム氏は、キム氏のそんな状況も知ら ず、
ひたすら「WHY?」と、悩んでいた。
どうしても、納得がいかない。

そうしている間に、ソウルは強風と豪雨により、
荒れ狂い始めた。
風と雨で、作物はメチャメチャだ。
そして、マイホームであるアヒルのボートすら、
川に流されようとしていた。
必死にボートを掴むキム氏





だが、アヒルの目が「自由にして」と、
訴えているように感じたキム氏は、 アヒルを放してやる。
アヒルのボートに向かって、
「行け、行け」と、手で合図してやる。
せつなく、寂しく、そして、旅立ちを祝福するキ ム氏

朝目覚めると、部屋の中は昨夜の強風豪雨のために、
メチャクチャになっていた。
すぐにキム氏の ことが心配になるキム氏
カメラの元へと走っていく。

一人、呆然と座っているキム氏の 後ろ姿を発見し、
無事だということに安心するキム氏
だがキム氏は、 絶望に陥っていた。
またもや、全てを失ってしまったのだ。


自分を支えてくれた手紙をくれた女性からの返事。
そして、自分が手塩をかけて育てた、作物も畑も全滅。
マイホームのアヒルも消えた。
「これすら.... ダメなのか....
俺には、ささやかな幸せすら、許されないのか....」
キム氏は、 運命を恨みたくなる。






キム氏は、砂浜の文字を書き 換えた。
FUCK YOU
その時、携帯電話の着信音が聞こえる。
振り向くキム氏



そこには、暴雨のために荒れてしまったパム島の清掃にやってきた、公益要員たちが立っていた。
「あなたは誰ですか!」
公益要員たちは、「ここにいてはいけないんですよ」と、
キム氏を たしなめる。
公益要員の一人が、耳打ちする。
「ホームレスですよ」と。
キム氏は、 とっさに逃げ出す。
公益要員たちの人数は、どんどん増えて、
キム氏は 逃げ切れず、捕まってしまう。



カメラで必死にキム氏を追い続け、
キム氏が どうなるのか、気が気でないキム氏




「ただ、ここにいさせてください....
何もしないから.....
返事も、もらわなくちゃいけないし.....」
キム氏は 懇願する。
キム氏は、漂流してきた時に 着ていた服を着せられ、
船に乗せられ、連れられて行く。


思いがけない出来事に、
キム氏は どうしていいのかわからない。
頭の中が真っ白になってしまう。

名残惜しそうに、パム島をみつめるキム氏
とうとう、川岸へと、引き上げられてしまう。
そんなキム氏を カメラで確認したキム氏は、
どうにかしなきゃ.......
と、決断を迫られる。
キム氏は、迷いながらも、部 屋の鍵を開ける。
そして、そのまま何も考えず、マンションを飛び出す。
フルフェイスのヘルメットも、身を隠す傘もない。
無防備なままのキム氏
マンションを飛び出したキム氏は 車に衝突しそうになり、
驚きで身動きできなくなる。
そして、久しぶりの直接当たる日光、たくさんの人間....
キム氏は めまいがしそうになる。
しかし、こんなことしていられない!
あの人が!
キム氏は、 全力疾走で走り始める。
キム氏は、遊歩道の花壇に座 らせられ、
そのまま置き去りにされる。
目に留まったのは、
片方が脱げた、みすぼらしい手作りのサンダル......












キム氏は、絶望に陥る。
空を見上げると、目の前に63ビルが見えた。
そう、63ビルなら、確実に死ねたのに......
キム氏は、 63ビルに向かう。




その頃、キム氏は、西江大橋を全力疾 走していた。




キム氏は、脱げたキム氏の手作りのサンダルを 発見した。
この近くにいるはず.....
でも、見当たらない.....

一方その頃、キム氏は バス停にいた。
そして、63ビル行きのバスが、停留所に到着する。
バスに乗るキム氏

その頃、キム氏は、通行人の言葉を耳 にする。
「バス停にいた人、ターザンみたいだったね。原始人みたい」
キム氏は、 それは間違いなく、キム氏だ と直感する。
そして、急いでバス停に向かう。




しかし、既にバスは出た後だった。
必死にバスを追うキム氏
だが、バスに追いつけるはずがない。
遥か遠くへと消えて行くバスを見送りながら、
涙を流すキム氏




その時、奇跡のような出来事が起きる。
春に1度、秋に1度.....
そう、今日は年に2回の防災訓練の日だったのだ。
キム氏が、キム氏を見守り続けてから、 半年が過ぎたのだ。
サイレンが響き渡る。
"希望"をみつけたキム氏は、笑顔で失踪する。



バスに追いつき、バスに乗り込むキム氏



キム氏を発見し、キム氏に近づいていくキム氏
だが、キム氏は、 自分をみつめる見知らぬ女を見て、
訝しがる。



「マイ ネーム イズ キム・ジョンヨン」
キム氏は、 息を切らしながら告げる。
「フー アー ユー?」
キム氏は 尋ねる。

そして、にっこりと微笑むキム氏
キム氏は、全てを悟り、感無 量で、涙を流す。

その時バスが揺れ、二人は思わず手を握ってしまう。
みつめ合う二人。
サイレンが鳴り、防災訓練の終わりを告げる。
バスは二人を乗せて、走り出す。

END


これからの二人の始まりを思わせるラスト。
心地よい、あったかな余韻が残ります。





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