黒い土の少女  With a Girl of Black Soil
 原題:黒い土地の少女と 검은 땅의 소녀와 (コムン タンエ ソニョワ) <2007>

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黒い土の少女

かつて炭鉱で栄えた土地―― 江原道のとある村。廃鉱寸前のヤマで働く父と、軽 い精神障害を持つ兄の三人で暮らす9歳のヨンリムは、兄の面倒も見るしっかり者の少女。ある日、父が病気を理由にクビになってしまう。その後始めた仕事も うまくいかず、酒浸りになる父。保障を受けて入院するためには、もっと重い病気にならなくてはいけない。そのことを知ったヨンリムがとった行動とは…

アー トフィルム ショーケース

【予告編】

監督 チョン・スイル(全秀一) <1997>私の中で鳴る風、<1999>鳥は閉曲線を描く、<2004>私に は私を破壊する権利がある、
<2005>犬と狼の間の時間、<2007>黒い土の少 女
<2009>風が留まる場所、ヒマラヤ

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【レビュー&ネタバレ】
2007年11月韓国公開。観客動員数は、約700人。
700万人ではありません。
1000人未満という驚くべき数字。
それもそのはず。
あまりにも暗く、悲惨なのだ...........
貧困に喘ぐ一家を淡々と描いておりますが、あまりにも退屈すぎる。
こういった静かに時が流れる淡々とした作法は、
ホ・ジュノを彷彿させますが、ホ・ジュノほど引きつけるドラマがない。
初期のキム・ギドク作品の方が、まだ面白みがある。
どれほど退屈かわかって頂けるでしょうか。
のっけから観たのを後悔。
炭鉱の現場が映される映像は、
あまりのリアルさに映画というよりもドキュメンタリーといった雰囲気。
あちゃー 失敗した!
冒頭から30分くらいは、何度リタイアしようかと思ったことか。
観終わった後は、それなりに感慨深いものが残ったのですけれど。

俳優陣が無名な上に魅力がないのもツライ、ツライ。

【ヨンリム】  ユ・ヨンミ 【ヘゴン】  チョ・ヨンジン 【ドング】 パ ク・ヒョヌ

ユ・ヨンミは、ドラマ<偉大な遺産>、<黄金のリンゴ>、<ありがとうございます>
映画 アジョシに出演。
チョ・ヨンジンは、私たちの生涯最高の瞬間で、 ムン・ソリたちの昔の監督、
シークレット・サンシャインで、 誘拐犯の塾経営者。

父親役がソン・ガンホだっただけでも、映画に面白みが加わることでしょう。
俳優って、やはり大事よね。
僕の彼女を紹介しますの、チョン・ジ ヒョンの同僚刑事、キム・テウクが、
事故の被害者で登場しただけでも嬉しくなってしまったわよ。
すんごーい遠目で、誰だかわからないくらいなのに....





邦題の黒い土の少女は、イマイチ納得いきません。
黒い地の少女ならわかるのですが.....
もしくは、黒い土と少女。
少女が黒い土とはナンなんだ???

2007年度、青竜映画祭のベスト10に入ったということで、
興行的には失敗だけれど、隠れた名作かも?と、
どーにも気になって観てみましたが、ちょっと期待はずれでしたね。
ですが、期待はずれとはいっても、
mocaが期待していた人間ドラマとしての期待が外れたということです。
映画自体は良い映画と言えるでしょう。
但し、面白い映画でもなく、名作とも言えない作品であることは確かです。

日本でも、2008年3月にアー トフィルム ショーケースで 上映。
まさにアートフィルムと呼ぶのにふさわしい映画。
黒い土地に白い雪、そして、赤いセーターの少女。
視覚的にも優れた作品。
ポスターからも、そのアーティスティックな才能を感じることでしょう。
寂れた炭鉱の村、江原道の太白(テベク)の風景も趣きがあり、
韓国のタルトンネ(貧民街)に惹かれる方にとっては、ツボを刺激されるかもしれません。
ただ、タルトンネに惹かれるmocaにとって、
この寂れた炭鉱の村は惹かれるものがありませんでした。
映画のテーマ的があまりにも重くて、趣きを感じるどころではないということもあります。

ほんとに、あまりにも暗く悲惨。
ラストは、あまりにもせつなすぎて、言葉にならない................
子供とは、いかに抱きしめたくなる存在かということを、ひしひしと感じました。
子供だからこその感性に、圧倒されます。
これが大人だったら、こんな結末にはならないですから。
そして、そんな子供の感性を見事に描いた監督の感性も素晴らしい。
忘れていましたね、こんな感性を.....

韓国での9歳というのは、日本 での8歳に当たります。
母親はなく、父と知的障害の兄との三人暮らし。
兄とは名ばかりで、赤ちゃん以上に世話のかかる兄の面倒を看ながら、
父の世話まで焼くしっかり者の少女。
けれど、本当は甘えたい年頃だということが目に見えて、あまりにもせつない。
炭鉱の村には母親がいない家庭が多いそうです。
あまりの貧しさに逃げ出してしまうか、男を作って逃げてしまうそうです。
この主人公ヨンリムの家も例外ではありません。
母親がいない理由は敢えて描かなかったそうですが、考えればわかります。
貧しい上に知的障害の子供を抱え、母親は耐え切れなかったのでしょう。
子を捨てる女を世間は鬼と呼ぶでしょうが、
この映画を観ていると、貧しさが人間を変えてしまうことを痛感します。
貧しさが、どれほど恐ろしいことなのか。
そして、人間の弱さ、脆さを。
追い込まれてしまった人間が変わってしまうことを、誰も責められないでしょう。

下流で生きる貧困層の人間にとっては、自らの人生に重ね合わせ、慰めとし
中流で生きる一般市民にとっては、貧困層への同情と憐憫、
そして、貧困層への理解を深めるきっかけとなる作品かもしれません。
ですが、一番観るべき富裕層は、決して観ない映画でしょうね。
もし観たとしても、「貧しさは恥、自業自得」だと、罵るだけでしょうか。

人生、楽あれば苦あり... などとは嘘です。
何をやってもうまくいかない人間もいれば、
何をやってもうまくいってしまう人間もいるんです。
人生とはチョイス(選択)です。
選択を誤ったがために人生を転落してしまう人もいるでしょう。
しかし、一旦悪いことが起きれば、抜け出せない悪循環に陥ってしまう人生もあるのです。
まさにそれが、この映画のヘゴン。
特に資格もなく、財もなく、炭鉱で働くことしかできない男。
しかし、炭鉱で働いたがために、塵肺症になり仕事が続けられなくなってしまう。
塵肺症だけでは国の補償もなく、仕事もみつからない。
そんな弱者の弱みにつけこむハイエナの罠に見事にハマリ、
障害者への手当てをつぎ込んだ商売で失敗し、
住んでいた家も、再開発のために立ち退きを迫られ、八方塞になってしまう。
追い詰められた人間が取る方法は....
死ぬか、悪への道に転落するかしかないじゃないですか。
このヘゴンはバカがつくほど優しく子供想いの男。
そんな男が悪に手を染められるでしょうか。
自分が騙されたように、他人を騙せるとでも?
そんなことができたら、人間が変わってしまうほど苦しみません。
いくら愛する子供のためでも、悪に手を染めることができないほどの善人なのですから。
そして、生(せい)の前では、倫理もなくなる。
それを示したのは、9歳の主人公ヨンリム。
「ツケで酒を買って来い」と、父に怒鳴られるけれども、
近所の店ではもう、ツケでは売ってくれなくなっていたのでしょう。
家から遠いコンビニまで行き、「ツケで」とは、とても言えずに万引きしてしまう。
罪を犯したくて犯す人間は、ごく一部。
そして、裕福に暮らしたいがために罪を犯す人間は同情の余地なし。
しかし、生きるために犯す罪に対し、何を言えるでしょうか。
あまりにも悲しい人生......
「罪を犯すなら死ね」と言うのでしょうか.....
mocaは、「たった1つの命」「自殺しないで欲しい」などというCMやポスターを見る度に
腹がたって仕方がありません。
お金をかけてそんなことをして、どれだけの人が救われると?
本気で救おうとしている人が、どれだけいると?
この映画からも、そんな憤りを感じることができます。
冒頭で兄と妹が雪ではしゃいでいるのを見守るコートの女、
少女が兄を施設に連れていく場面でも登場。
この女性は世間の象徴。
ただの傍観者。それが世間ということ。
見ているだけで何もしない。
そして、何もできないということも言えますね。
保障だって、ハイハイ二つ返事でできるわけがありません。
それであっても、飛行機や新幹線で通院しただの、タクシーで100km通院しただの
そういうヤツがいるから、善人が苦しむんだ。
税金が、国民の血税だとわからぬヤツは、例え貧しくなろうとも殺せ。

この映画は、韓国だけの問題ではありません。
貧困の波は日本にも押し寄せてきているのは明白です。
韓国のように貧民街がないからこそタチが悪い。
日本ではネットカフェなどに隠されてしまって見えずにいるのです。
この映画は、日本の未来でもあるのです。

貧困が広がれば、犯罪も比例して増えていくでしょう。
これからの日本は、更に生き辛い国になるのでしょうね。
貧困層が増えれば、中流層の税負担も増えるばかりで、
中流層の人間も、どんどん下流へと押しやられ... まさにスパイラル。
この少女の最後の行動は、非現実なことではありません。
いつか起きることでしょう。
そんなことを考えながら観て欲しい映画です。
たった8歳の少女が、家族が生きていくために悲しい決断をします。
兄を施設に送って行った少女の心中を察することができますか?
父に猫いらずを飲ませた少女の心中を察することができますか?
決断はしたもの、どうしていいのかわからずに
一人バス停で、泣きながら風に吹かれる少女の気持ちを....
たった8歳なのに......

この映画がよい映画か悪い映画かは置いておいて、
この映画が伝えるメッセージは、とても意味深いです。
劇場公開ではなく、ぜひTV放映して欲しい作品です。
これをもう少しドラマティックに、大衆向けに制作したら... と、思ってしまいますが....
芸術のわからないヤツでごめんなさいね....






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