息もできない  Breathless  
 原題:糞蠅 똥파리 (トンパリ)<2009>

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仲間も敵も区別せず、罵しり殴りながら気が向くまま生きて来た用役ヤクザ のサンフン(ヤン・イクチュン)。

この世に恐ろしいものがないサンフンだが、彼にも心の中から消したくても消えない深い傷がある。それは、「家族」という名が残した悲しみだ。

そんなある日。偶然、道で女子高生のヨニ(キム・コッピ)と喧嘩になったサンフン。自分に食ってかかる度胸のあるヨニが新鮮だった彼は、それ以後、ヨニと 親しく なり、彼女に妙な同質感を感じる。

そうして、少しは平和な日常を送っていたある日...  サンフンの父親が、15年ぶに出所してくる。
 
日本公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/
【予告編】
脚本・監督 ヤン・イクチュン <2005>ながめる[短編映画]、<2009>息もできない、<2011>Departure[短 編映画]

出演

ヤン・イクチュン

<2002> 品行ゼロ、<2003>チャ・テヒョンのハッピー☆クリスマス、 <2004>ARAHAN アラハン、
<2006>まぶしい一日、<2006>けつわり[日本映画]、<2006>強 敵、<2006>私たちの幸せな時間
<2006>後悔なんてしない、 <2007>私の生涯で最悪の男、<2008>ビバ!ラブ、<2009>息もできない
<2009> 海の方へ、もう一歩、<2010>家出した男たち、
<2011>Departure[短編映画]

キム・コッピ

<2003>嫉妬は私の力、<2002>頑張れグムスン、<2005>チャーミング・ガール、<2005>B型の彼氏
<2005>親知らず、<2005>6月の日記、 <2006>シティ・オブ・バイオレンス -相棒
<2006>家族の誕生、<2006>三差路 の劇場、<2009>息もできない、 <2009>略奪者たち、
<2009>うちにどうして来たの
【キム・サンフ ン】
用役ヤクザ
ヤン・イクチュン
【ハン・ヨニ】
女子高生
キム・コッピ
【ハン・ヨン ジェ】
ヨニの弟
イ・ファン
【キム・スン チョル】
サンフンの父
パク・チョンスン
【チョン・マン シク】
私債業者
チョン・マンシク
【キム・ヒョン ソ】
サンフンの姉
イ・スンヨン
【ヒョンイン】
サンフンの甥
キム・ヒス
【ハン・ヒョン ソク】
ヨニの父
チェ・ヨンミン

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【レビュー&ネタバレ】
2009年4月公開。観客動員数は、約12万人。インディーズ映画としては脅威 の数字だ。
商業映画よりもヒットしている。
また、日本語DVDの発売が決定し予約開始したが、バカ売れしている。驚き。

世界中で様々な賞を受賞しているこの作品。
この映画は賛否両論でしょう。
北野作品が世界で絶賛されているのと同じです。
好きな人はトコトンはまるし、嫌いな人は生理的に受け付けないでしょう。
特にバイオレンスが苦手な方は遠慮した方がよいかもしれません。
優れた作品だということは理解できますが、mocaは好きじゃないし、面白くもなかった。
韓国映画が好きという人よりも、韓国映画に興味のない人に受け入れられるんだと思います。
本当は◎にしたかったのですが、苦手な人もいると思うので。

映画というよりも、ドキュメンタリーを見ているような気分。
ハンドカメラの味のある映像が、更にドキュメンタリーのような雰囲気を醸し出します。
商業映画ではありませんから、ドラマティックではありません。
社会の底辺で生きる一人の男の人生を描いています。

この映画で、頻繁に出てくる言葉が「シバノマ」という言葉。
「シッパル」or「シーバル」=「くそったれ」
「ノム」=「奴」
「シバノマ=シッパルノム」
英語で言えば、「Fuck you」に当たるような悪口です。
原題が「糞蝿」なのは、「くそったれ」にたかる蝿のような存在だからでしょうか。
そう考えると、ぴったりなタイトルだと思います。
「息もできない」は、キレイすぎるタイトルですね。こちらの方が馴染みやすいですけど。
「糞蝿」は糞にたかって忌み嫌われる存在。
そんな忌み嫌われる存在でも、苦悩し、苦しみ、悩み、そして、人間らしく優しさや寂しさ、愛情を持っています。
糞蝿と忌み嫌われても、人間なんです。

最初は、見るのもイヤなほどだったサンフン。
しかし、最後には愛着すら湧いてくる。
それは、サンフンという人間を知ってしまったから。
サンフンの苦悩や優しさを知ってしまったから。
サンフンの寂しさを感じてしまったから。
サンフンも、真っ当な育ち方をすれば、真っ当な人生を送れたかもしれない。
暴力の連鎖が暴力を呼んでしまった。
殺したいほど憎い父親に対しても、心の底からまで憎めない。
憎しみと情。その苦悩。
あまりにも気の毒で哀れな男の人生。

ラストがいいですね。
時系列通りに構成されていたら、つまんない映画になっていたかもしれません。
ですが、マンシクやヨニの笑顔の後に、嗚咽するマンシクや姉の姿....
これにはやりきれなくなります。

ちなみに「用役ヤクザ」というのは、韓国ではお馴染みの強制立ち退きでやってくるヤクザいますね。
あぁいう仕事を、仕事ごとに金で雇われるヤクザのことを言います。
ヤクザの派遣みたいなものですね。


↓  結末までネタバレ!ご注意を!! ↓




用役ヤクザのサンフン。
その日は大学内の紛争を鎮圧するために駆り出される。
味方も仲間も区別せずに殴りつけるため、社長であり親友のマンシクからとがめられる。




そんなサンフンだが、甥のヒョンインやヒョンインの母である姉に対しては、家族としての愛情を持っていた。




ある日、道端でツバを吐くと、道を歩いていた女子高生ヨニのネクタイを偶然に汚してしまう。
ヨニはサンフンを恐れることもなく、堂々と文句をつける。
結局ヨニは殴られ失神してしまう。
「慰謝料を払え」
と、つっかかるヨニ。
サンフンはヨニに缶ビールを買い、それで頬を冷やすように促す。
しかしヨニはそれだけでは納得しない。
「慰謝料が足りない。連絡してこなかったら暴行罪で通報するから」
ヨニは言う。サンフンはピッピ(ポケベル)しか持っていなかった。




夫の暴力から逃れるために離婚したサンフンの姉。
サンフンは稼いだ金を黙って姉に差し出す。
「姉さんも稼いでるから、こんなことしないで」
姉はやんわりと断ろうとするが、
「誰が姉さんだ?俺のオンマの顔知ってるのか?」
サンフンはそう言って立ち去ってしまう。




サンフンには、消しても消せない記憶があった。
父は母にいつも暴力をふるっていた。
だが父は、それを止めようとした妹を包丁で刺し殺してしまう。




サンフンは急いで妹を病院に運ぶが、着いた時には既に息はなかった。
また、サンフンと妹を追って道に飛び出した母は、車に轢かれてしまう。
こうしてサンフンは、母と妹を同時に失った。
それは、サンフンに深い傷を残すことになる。




そこへ偶然ヨニが通りかかる。
「ワイフ(奥さん)なの?ヤクザにも家族がいるんだ」
ヨニの言葉にサンフンは逆上する。
「とっとと失せろ!」
怒鳴りつけているところに警官が現れ尋問されそうになる。
サンフンは警官を痛めつけ、ヨニと逃げる。
「逃げ場所を提供したんだから、おごってよ」
ヨニは告げる。




ヨニはヨニで家族という苦労を背負っていた。
生活が苦しい上に、金をせびるだけの弟。
戦争に行って以来、まともな精神状態でなくなってしまった父。
作った料理に文句をつける父。
「猫いらずを入れたろう?俺を殺す気か?」
そんな父と弟に生活の苦労まで... しかしヨニは負けるまいと自分と戦いながら生きている。




私債業を営むマンシクの貸した金を取り立てることも、サンフンの日常の業務だ。

ある日、子供の前で妻に暴力をふるっていた債務者 に、限度を越えた暴力を振るうサンフン。
サンフンにとっては、ドメスティック・バイオレンスはトラウマになっていた。




家に帰れば、15年ぶりに出所した父が家にいる。
サンフンはやるせない。
父を汚い言葉で罵り殴り、それでもサンフンの気は晴れない。




ヨニも父親の暴力を受けた。それを庇ってくれるのは母だった。
その日も母になだめられながら、母の営む屋台へ向かった。
しかしその時、母の屋台はヤクザらにメチャクチャにされていた。
そのヤクザはマンシクやサンフンらだった。




慌てて止めに入る母までも、ヤクザらは暴力を振るった。
しかしサンフンの腕を刃物で切ってしまった母は、痛めつけられ亡くなった。




ヒョンインは友達と遊んでいても、父親がいないことや、プレステを持っていないことで引け目を感じていた。
そこへヒョンインの父だと言ってサンフンが現れる。
しかしヒョンインは黙ったまま、サンフンの問いに答えない。
「黙ってる奴は嫌いだ」
帰ろうとするサンフンに泣きすがるヒョンイン。「行かないで、行かないで」と。
(思わずウルウルきちゃいます)
サンフンはヒョンインにプレステを買ってやり、授業中のヨニまでも呼び出した。
「一杯おごってやる」と。
授業をエスケープし、サンフンとの待ち合わせ場所へ向かうヨニ。
ご飯を食べて、街をブラブラして、そんな何気ない時間が三人には新鮮だった。




ヨニの弟ヨンジュは、 友達の紹介でサンフンと共に取り立ての仕事をすることに。
帰宅したヨンジュにヨニは言い放つ。
「今月も滞納したら、追い出される」
ヨンジュは黙って金を投げつける。取り立てで稼いだ金だ。
とても一日で稼げる金額でないことにヨニは不安を覚え、金の出所を追及する。
だが、ヨンジュは部屋に閉じこもってしまい答えない。
ヨンジュもヨンジュなりに、その日の出来事がショックだったのだ。




サンフンはついに携帯電話を買うことにする。
姉が携帯ショップで働いていた。
「私が買うわ。社員割引で安くなるから」という姉の言葉に逆上するサンフン。
「俺が現金で買うんだ!」
それがサンフンなりの愛情表現だった。

帰りに姉と食事するサンフン。姉に再婚を勧めるサンフン。
ヒョンインが父親がいないから、いつも苛められていると。自分が紹介するぞと、姉をせっつく。
サンフンはサンフンなりに家族を想っているのだ。
だが、父親は別だ。
姉が父に会いにいっていることを知ったサンフンは激怒する。
「父親じゃない。肉親でしょ」
と説得する姉に対し、受け入れようとはしない。
「アボジも今辛いのよ」
姉は父を理解する。それが更にサンフンの怒りに火をつける。
「辛い?何が辛いんだ?
父親が同じってだけで、てめーの母親の顔も知らねえのに会わなきゃならねぇ、会わなきゃ楽だったの!」
サンフンは姉には暴力は振るえず、怒鳴りつけて店を出て行く。
店を出たところで、見知らぬ男を痛めつけ、更に家に帰ると父親を痛めつけた。
そして、父親に暴力を振るっているところを、ヒョンインに見られてしまう。




取り立て現場でモタモタしていたヨンジュを叱責し、頬を叩くサンフン。
「遊びに来たのか?役にたたねえ奴は殺してやりてぇ。死にたくなきゃ行動しろ。お高く留まんな!」




サンフンから受けた鬱憤を晴らすかのように、姉に当たるヨンジュ。




サンフンはマンシクに諭される。
「そんな風に考えるな」と。
「お父さんだって辛いだろう。監獄で15年も罪を償ったじゃないか」
しかしサンフンは受け入れない。
「15年監獄に入れば、人を殺した罪が消えるのか!」と。




家に帰ると、父は手首を切り自殺を謀っていた。
血相を変えて父をおぶり病院へ向かうサンフン。
「死んだら許さねえ」と。
サンフンの中の心の葛藤。




サンフンはヨニを呼び出す。
ヨニに膝枕すると泣き出すサンフン。




ヨニもまた、辛さがこみ上げ泣いてしまう。
二人きりで、ただただ泣き続けるサンフンとヨニ。




自分に死ねと言いながらも、命を助けた息子。
父は古い写真を取り出し眺める。死んだ妻、娘、そして、まだ幼いサンフン。




サンフンが父に暴力を振るうのを見て、ヒョンインは口も利かず、プレステをやってきても少しも楽しそうにしない。
それを見て、サンフンは出て行く。




ヒョンインはサンフンの後を追い、泣きながら叫ぶ。
「なんでハラボジを殴るんだ!良い人なのに!」




サンフンは突然「今日で仕事をやめる」とマンシクに告げる。驚くマンシク。
「俺はお前の性格はよく知ってるが、あまりにも急じゃないか?」
マンシクは尋ねる。
「どうせこの仕事はホンシクに譲ろうと思ってた。焼肉屋の準備もできてるし、お前の退職金もたんまり溜まった」
マンシクは辞めることに同意する。




サンフンはヨンジュと二人きりで取り立てに行く。
しかし、「金はない!くそったれ!」と、逆に強気に出られヨンジュが債務者を痛めつける。
幼い兄妹が、父が殴られるのを見て「殴らないで」と泣くのを見て、サンフンの心の中の良心が揺れる。
「ここはいい」
そう言って帰ろうとするが、債務者の父親にサンフンが殴られてしまう。
それでもサンフンはおとなしく引き下がる。




「いいって言ったのに、そのせいで俺はこのザマだ」
サンフンはヨンジュに嫌味を言う。
「ティッシュあるか?」
ヨンジュはポケットの中を探る。すると、ポケットの中にハンマーが。




思わずサンフンをハンマーで殴りつけてしまうヨンジュ。
「何モタモタしてんだよ。くそったれ!俺にそう言っただろう?なのに、なんでテメーがモタモタしてやがる!」
血まみれになりながら、「学芸会に行かないと」とだけ呟くサンフン。




今日はヒョンインの学芸会。ヨニもマンシクも招待したサンフン。
しかし、いくら待ってもサンフンは来ない。




父も学芸会にやってきた。しかし、自分の立場を考え帰っていく。




マンシクの焼肉店がオープンした。皆がお祝いにかけつける。
皆、満面の笑顔。




時間は戻り─

サンフンは亡くなった。嗚咽するマンシクら。




皆がサンフンの死を悲しんだ。
人生をやり直そうとしていたサンフン。それが見事に無残に砕け散った。




ようやく人間らしさを取り戻しつつあったサンフンであったのに...




焼肉屋の帰り道、ヨニは屋台の立ち退きに遭遇する。




すると、そこにヨンジュの姿が。驚いて微動すらできないヨニ。




ヨンジュの姿がサンフンに重なって見えるヨニ。
ヨンジュもまた、サンフンのような生き方をするのであろうか。

END



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