走れ自転車  Ride Away 
 原題: 走れ 自転車 달려라 자전거 (タルリョラ チャジョンゴ)<2008>

 オススメ

 ストーリー

 韓流王道

 泣き

 笑い

名作

 映像

×

×



大学新入生のハジョン(ハン・ヒョジュ)は、大学に入学するため引っ越してきた 初日に偶然道で出会ったスウク(イ・ヨンフン)に妙な好感を感じる。

スウクが大学の前の古本屋で働いていることを知ったハジョンは、スウクのそばに近づきながら、友人ソニョン(イ・ウン)によるコーチの元、スウクに自分の 感情 を告白するための妙案を絞り出し始める。
 
スウクに会うために古本を売ったり買ったりするかと思えば、スウクが自転車に乗っていることを知ると、乗るつもりもなかった自転車を習い始めるなど、 ハジョンの日常はスウクのせいで、どんどん爽やかになる。
 
スウクも知らず知らずのうちに、あまりにもウブなハジョンに心を開き始めるが、二人のどちらもが、話すことができない心の傷を心の奥にしまっている事 実を、互いに知るようになる。


【予告編】
監督 イム・ソンウン <2008>走れ自転車

出演

ハン・ヒョジュ

出演作一覧
イ・ヨンフン <2006>後 悔なんてしない、<2008>GP506、 <2008>走れ自転車、<2010> 解決士

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【レビュー&ネタバレ】
2008年8月韓国公開。観客動員数は、約3000人。
スクリーン数12館のインディーズ映画。
韓国のインディーズ映画が、日本でDVD化されるってすごいと思いませんか?

インディーズ映画で思い出すのは、後悔なんてしない
後悔なんてしないは、クチコミ でどんどん話題になった映画です。

インディーズ映画にこそ、本来の韓流の良さが残っているのでは?
と、ちょっと思いました。
最近の映画は、日本映画もどきで、かなり韓流らしさに欠けています。
この映画が、なぜDVD化されたか、よくわかりました。

予告映像を観ただけで「これは!」と思いましたが、まさにビンゴ!
韓流らしい匂いのする映画です。
映画の内容は、平凡で、日常的な感じです。
どこにでもある恋物語。
初恋の初々しさを感じる映画です。
そして、若くして人生の重荷を背負ってしまった主人公二人の心の葛藤と苦悩....
大学入学時から、将来のために公務員試験を目指すハジョン。
自分のためにではなく、若くして家族のために生き続けるだけの人生。
そして、ある事情から、今の自分から飛び出せないスウク。

人生、何が起きるかなんてわからない。
家族や恋人により、若くして人生の重荷を背負ってしまった二人を通して、
人生の苦しみを描いています。
そして、この映画のアイテムとなるのが「スノー・クイーン」という競走馬。
誰が見ても勝てそうにない弱々しい馬。
しかし、スウクは言う。
「こんなに一生懸命走る馬は見たことがない」と。
一生懸命走れば、奇跡は起きる。
「走れ自転車」
というタイトルにも込められた、監督からのメッセージ。
諦めるな、走れ。

目新しい映画ではありません。
やはり、インディーズでなくては作れないのかもしれません。
日本の韓流ファンには、けっこうお勧めしたい映画です。
韓国映画のぬくもりを感じます。
落ち着きます。ホっとします。


 
【イム・ハジョ ン】
大学生
ハン・ヒョジュ
【キム・スウ ク】
古本屋店員
イ・ヨンフン
 
【ハジョンの 父】

キム・ウンス
【イム・スン フィ】
ハジョンの弟 高校生
ソン・グァンウォン
【イ・ソニョ ン】
ハジョンの同級生
イ・ウン

mocaの嫌いなハン・ヒョジュも、この映画ではけっこうオッケー。
彼女は、アドリブ・ナイトや、この映画のよう な平凡で等身大の役どころが一番です。
春のワルツは、 「キャラ的にも悪かったし....」と、ちょっと自分に言い聞かせておりましたが、
華麗なる遺産も、mocaとしてはダメですねぇ.... ハン・ヒョジュは......
ドラマとしては面白いのに....

そして、イ・ヨンフン。
これがまた、自然なんですねー
彼は決して「イケメン」とは言えない容貌ですが、人を惹きつける何かがあります。
この映画では、ガラスの割れた眼鏡をしていて、そこが妙に好きでした。
でも、割れた眼鏡をしているには、理由があったんです。
それを知り、人間の脆さ、弱さ、というものを痛感しました。

そして、雪の女王のキム・ウンス。
のイ・ウン。
イ・ウンは、脇役として最高ですね!
自然体なのに、イイ味だしますよねぇ~
彼女が演じると、どんな役でも憎めない。



↓  結末までネタバレします!ご注意を! ↓


大 学に入学するために、
大学の近くへ家族で越してきたハジョン。

通りかかったスウクに、ハジョンの父は道を尋ねる。
言葉で説明せず、指を指すスウク。
そんなスウクを「最近の若者は...」と、父は嘆くが、
ハジョンはスウクになぜかドキドキしていた。

大 学へ初登校するハジョン。
近くの席に座っていたソニョンが声をかけてくる。
「私、イ・ハニョン。よろしくね」
ハジョンもよろしくと挨拶する。
すかさず「私の名前は?」と確認するソニョン。
戸惑うハジョンに、「イ・ハニョン」
と、もう一度名乗る。
すると、「私の名前が呼ばれたら返事しておいて」
と言い残し、教室から出て行ってしまう。
要するに代弁だ。
あわてふためくハジョン。
「イ・ハニョン」と呼ばれ、つい手を挙げて返事してしまう。
そのせいで、自分の名前を呼ばれても、
返事をすることができず、凹んでしまう。







大 学の近くの古本屋。
そこで引越しの日に出会ったスウクが働いていることを
知ったハジョンは、本を売りに行く。

「本を売りに来たんだろう?
今、小銭がないから、両替してきて」
と、1000ウォン札(約100円)を差し出す。
「あのぉ、私、お客さんですけど....」
ハジョンは消極的な反論をするが、
「イヤなら、小銭がある時に」
と言われ、しぶしぶ両替に行くことに....
両 替して戻ってきたハジョンに、
スウクは、1000ウォン札を3枚渡す。
ハジョンは納得がいかない。
「1冊100ウォンだなんて... 
それに小銭も必要なかったじゃないですか....」
スウクはハジョンの本を差し出す。
「売らないなら、持って帰って」
ハジョンは何も言えず、店を出るが、
腹立ちまぎれに、店の外にあったスウクの自転車を
思い切り蹴飛ばして逃げる。


弟 のスンフィが学校で喧嘩し、ハジョンは呼び出される。
母のいないハジョンは、
妻であり、母であり、姉であり....
一人で家族を背負っていた。

学校で揉め事があると、
学校側に問題があるように思われるが、
実際は家庭に問題があることの方が多い。
大変だと思いますが、お姉さんが気遣ってあげて下さい。
ハジョンはスンフィの担任に指摘される。




「高 校を卒業したらどうするの?」
ハジョンはスンフィに尋ねる。
「家出」
スンフィの答えをハジョンは否定する。
「卒業して家を出るのは家出じゃなく、独立だ」と。
ハジョンは昨夜見た夢の話をして聞かせる。
「昨日夢に父さんが出てきたの。
料理を作って、誰かを待ってるの。
誰を待ってるのか気になって...
そしたら門が開いて、誰かが入ってきたの。
誰だと思う?」
ハジョンは尋ねる。
「借金取り」
スンフィは答える。
昔そういえば、借金取りがやってきて、
家中に赤い札を貼られたな...
スンフィは昔を思い出す。
「あんたよ」
ハジョンは告げる。
「父さんがあんたを待ってたの。
一緒にご飯を食べようと」
スンフィはうんざりする。
「いい子ぶるのも疲れないか?
父さんは、どんな人間だ?
自分の病気の看病のせいで姉貴を浪人させ、
姉貴が大学へ行くと言ったら、
大学のそばに職場を探す人間だ。
そんな人間が食事を作り、俺を待ってた?
まったく...
優秀な公務員になって
一生父さんの後始末をして生きろよ」
スンフィは言い放つ。
「私が自分で決めたことよ」
ハジョンは否定する。
「母さんもそうしたんだろうな。
昨日見た夢に姉貴はいなかったのか?
姉貴は死んだんだ。
父さんに自分を滅ぼされて...
母さんが死んだように...
とにかく俺は卒業したらすぐに家を出るから、
姉貴も、よく考えろ。
父さんに人生を奪われ、アル中にでもならないように」
スンフィは言い放つ。
「どこに行くっていうのよ!」
ハジョンはスンフィに問う。
「遠くに」
スンフィは答える。
泣き出すハジョン。
そんなハジョンに、スンフィも胸が痛む。
「わかった。高校は卒業するから。
今日のことは、父さんには言うな」
スンフィは言う。
「わかった。その代わり1つ条件」
ハジョンは答える。
ハ ジョンの条件とは、自転車の乗り方を教えろ、
ということだった。
何度も転びながら、乗り方を練習するハジョン。


本 屋から出てくるスウクを目で追うハジョン。
ソニョンは、すぐさまハジョンの気持ちに気づく。
「乗って!」
ソニョンはバイクの後ろに乗るようハジョンをせっつく。
戸惑うハジョン。
「相手が猫か虎かわかってから餌を置くでしょ?」
ソニョンはハジョンがじれったい。
ハジョンを乗せ、スウクの後を追うソニョン。


ス ウクが向かったのは競馬場。
ソニョンはスウクの買った馬券を覗き込み、
ため息を吐く。
スウクが賭けた「スノー・クイーン」は、
倍率987倍の大穴だ。
「彼の人生が花開く確立は987分の1よ」
ソニョンはハジョンに告げる。
「いくらお金がなくても、若い男が一攫千金を狙うなんて」
ソニョンは呆れる。
「何か事情があるのよ」
ハジョンは、スウクを庇う。


「と にかく自分の存在を相手に気づかせろ」
というソニョンの助言に従い、ハギョンは古本屋を訪れる。
勇気を振り絞り、そばにあった本を掴み
スウクに話しかける。
「旅行が好きなんですね」
ハジョンは尋ねる。
スウクは旅行関係の記事のスクラップを作っていた。
「買うの?」
スウクは素っ気無い。
「1000ウォン」
スウクは告げる。
1000ウォンを差し出すハジョン。
「気になったから聞くけど、
また買うなら、なぜ売ったの?」
スウクは尋ねる。
ハっとして自分の持っている本を見るハジョン。
それは以前自分が売った本だった。
大失態。
引くに引けず、そのまま買って去って行くハジョン。
そんなハジョンが気になったスウク。
ハジョンが売りに出した本を探し、本を開く。
すると、中から幼い頃の家族写真が落ちて来た。
父、母、兄のスンチョル、ハジョン、弟のスンフィ。

ハジョンは「公務員9級」の問題集を読むふりをしながら、
旅行ガイドを読みふけっていた。
それに気づいた父。
「家を出てこそ、苦労を知るんだ」
ハジョンを諭す。
不満そうに問題集を読み始める。


ハ ジョンは念願の自転車で通学を始める。
しかし、チェーンが外れてしまい困り果ててしまう。
ちょうどそこへ、スウクが通りかかる。
手際よくチェーンをハメるスウク。

スウクに並んで必死にペダルを漕ぐハジョン。
「アジョッシ(おじさん)」
と呼ぶハジョンに、不愉快さを露にするスウク。
「俺はまだ20代なんだけど」
「あぁ~そうなんだ~ 知らなかった」
と、からかうようにトボけるハジョン。
スウクも楽しげだ。
「後で店に寄らない?」
スウクは尋ねる。
「高校時代の通知表が出てきた」
と、スウクはからかう。
驚いたハジョンは自転車のコントロールを失い、
川に落ちてしまう。
ス ウクや周囲の助けで無事救助されたハジョン。
しかし、その事故がTVのニュースで流れ、
恥ずかしさに耐え切れなくなる。




そ の頃スウクは、
偶然ハジョンの母が書いた本をみつける。
本の写真と、ハジョンの家族写真を見比べるスウク。
同一人物だ。

足 を怪我したハジョンは、バスで通学することに。
しかしバスに乗り遅れてしまう。
気がつくと、東屋にスウクが座っていた。





川 での事故のことで気まずいハジョンは逃げ出す。
「俺達、前に会ったことあるよね?
川沿いで道を尋ねた...」
スウクは尋ねる。
「いつわかったの?」
ハジョンは尋ねる。
「遠視だから遠くは見えないけど、近くは見える」
スウクは答える。
「ハラボジ(おじいさん)ね」
と、ハジョンはからかう。
ハジョンの母が書いた本を差し出すスウク。
「チェウって、どういう意味?」
ハジョンの母が書いた小説のタイトルだ。
ハジョンは少しためらう。
「降りしきる雨に立ち止まる」
ハジョンは答える。
「なんで立ち止まらねば?」
スウクは尋ねる。
「雨が降ってるから」
ハジョンは答える。
「じゃあ、止んだら?」
スウクは尋ねる。
「行かなきゃ」
ハジョンは答える。
「君 も遅れそうなんだろ?」
スウクはハジョンを、自転車で大学まで送ってやる。
嬉しさが隠せないハジョン。




ソ ニョンは、ハジョンの恋の進行の遅さにしびれを切らす。
そして、スウクのブログをみつける。
「名前はキム・スウク、24歳。高校時代、陸上の選手」
ハジョンの表情がパっと明るくなる。
しかしそこには、スウクの恋人ミン・ソヒョンとの
ツーショット写真も掲載されていた。
一気に落ち込むハジョンをソニョンは励ます。
「大丈夫、最近の写真はないから別れたのよ。
男の方が初恋を忘れられないのね」



(この機械は何でしょう?
インターネットが見られる機械なんでしょうか?
それにしても、ソニョンはどうやって
スウクのブログを探し出したのでしょうねぇ)

「初 恋を忘れられない男って多いのよ。
その後も、初恋の相手に似た女を追ってしまう。
だから私が思うに、変化が必要な時期なのよ」
ソニョンの言葉にハジョンはイメチェンを決意。
パーマをかけるが、失敗してしまう。



家 に届いた1通の手紙。
それは家を出て行った長男スンチョルの
住所登録抹消を知らせる通知だった。
それを見てショックを受ける父。
「ドラ息子はどこへ行ったんだ....」
父は嘆く。


父 に付き添って病院を訪れるハジョン。
ハジョンはそこでスウクを発見し、
嬉しくて駆けて行く。
しかし、スウクをみつけたハジョンは愕然とする。
ブログに載っていた恋人ソヒョンに付き添っていたのだ。
ソヒョンは、意識が戻らないままの状態だったのだ。
最近の写真がない理由は、そのためだった。
ショックを受けるハジョン。











ス ウクの恋人のことでショックを受けたハジョン。
「3年経った。あんたがその女を忘れさせてあげる時」
ソニョンから励ましのメールが届くが、
ハギョンはその気になれない。


そ んな時、スンフィが突然いなくなった。
スンフィは夢遊病だった。
慌ててスンフィを捜し回るハギョン。
素足で歩いているスンフィに愕然とする。
「엄마(オンマ)が恋しいの?あんたが必要なの」
ハギョンはスンフィを家に連れ帰る。

ハ ギョンの母の祭司(チェサ)の準備をする父とハギョン。
素足で歩いたために怪我をしたスンフィを見て、
ハギョンは父に怒りをぶつける。
「父さんは、生きてる人より、死んだ人の方が大事なの?」
「父さんは、家族が大事だ」
父は答える。
「誰のための家族なの?」
ハジョンは問う。
その言葉に、父もスンフィも驚く。
スンフィは気まずくなって、部屋を出て行く。
「しばらく平気だったのに、学校に馴染めなかったんだろう」
父は自分のせいだとは認めない。
「スンフィは高1なのよ、父さん。
16歳の子供が夢遊病に苦しめられてるの。
それがどういうことか考えて」
ハジョンは父をとがめる。
「それが成長っていうもんだ」
父の言葉を受け入れられないハジョン。
「家庭にも目を向けて。
父さんは、中間試験の結果も見なかったじゃない」
ハジョンは責める。
「勉強もできないのに、見る意味があるか。
人間は、黙々と自分のことに取り組めばいいんだ」
父は言い放つ。
「スンフィの本分は勉強よ」
ハギョンは告げる。
「あいつがいつ、俺の言うことに耳を傾けた?
スンチョルだけが家にいれば...」
家を出た長男の話をする父をハギョンはとがめる。
「兄さんの話はしない約束よ」
「あいつがスンチョルの半分でも持ってたら、
こんな話はしない。
あいつは、すべて俺のせいだと思ってる。
自分が勉強ができないことも、母さんが死んだことも。
スンチョルが家を出て行ったことも、全部だ」
父は言い放つ。
「父さんが、あの子と兄さんを比べるからでしょ」
ハジョンは反論する。
「俺は、最善を尽くした」
父は言い放つ。
「去った人間のことばかり追わず、
残った人間のことも考えて。
父さんがそんなだから、あの子も家を出たくなったのよ」
ハギョンの言葉に、父は何も言い返せない。
「お 前は兄の半分も持ち合わせてない!」
と、スンフィを怒鳴りつける父。
スンフィは家族写真から、兄と父の顔を切り取る。





ハ ジョンも、父に嫌気がさし、
どこかへ行こうとバスターミナルへと向かうが、
結局どこへも行けず、
スウクの古本屋の前で佇む。


店 を閉め、帰ろうとしていたスウクがハジョンに気づく。
「男の人って、どうしてこうなの。
皆、自分のことしか考えない」
ハジョンはスウクに問う。

スウクはハジョンを自転車の後ろに乗せ、
自分の過去の話をする。
両親が離婚し、「スウク、どっちと暮らす?」
と尋ねられ、「一人で暮らす」と答え、
両方から生活費を貰うことにしたと。
しかも、高2からだと。
「その時は両親を憎んだけど、
考えてみれば、愛情もないのに1つの家で暮らす...
家族はそうなるもんじゃないって思った。
犠牲にせず望みを叶えるのならば。
それぞれが、自分の人生探しのために、
望んで家を出たんだろう」
スウクは語る。
「幼い頃から、父は金儲けができると言っては、
ことごとく事業に失敗したの。
そして母が『また書いて稼ぐ』と言って、
部屋に閉じこもったの。
辛かったのか、お酒ばかり飲んでた。
私は学校で有名だったの。母親がアル中だと。
それが嫌だったのか、兄さんは家を出て行った。
親というのは、子供のために生きていく理由があるのでは?いろいろ考えたし、恨んだりもした...
けど、よくわからない。
とにかく、私は母のようには生きないから」
ハジョンは告げる。
「目を閉じて」
スウクは突然言い出す。
「目を閉じて、願いを祈って」と。
今日、奇跡が起きるかもしれないと。
「じゃあ、ハジョンの願いを叶えに行くぞ!」
スウクは自転車を思い切り漕ぐ。




ス ウクが向かったのは競馬場。
買った馬券は、またもや「スノー・クイーン」
「世界で一番一生懸命走る馬だ。
でも、一度も勝ったことがない。
こいつは他の馬に比べ小さく、足首も細く、
誰が見ても勝てると思えない。
だけど俺は、こいつほど懸命に走る馬は見たことがない。
勝つことが目的ではなく、
走ることを楽しむかのようだ。
今日の最後のレースにスノー・クイーンが出場する。
スノー・クイーンが勝てば、
俺達の願いが叶うかもしれない」
スウクは語る。
「오빠(オッパ)の夢は何?」
ハギョンが尋ねた時、放送が流れる。
右前肢の故障のため、
スノー・クイーンは出場を取り消したと。
それを聞いたスウクは、苦笑いする。

二 人は古本屋に戻り、地図を的にダーツをする。
矢が刺さった国について説明するというルール。
スウクの旅行好きを知ってから、
旅行ガイドを読み始めたハジョンは、
すらすらと説明する。




「世 界を全部まわるとしたら、
どのくらい時間がかかるかな?」
ハジョンは尋ねる。
「さぁ、2年くらい?」
スウクは答える。
「その後はどうするの?」
ハジョンは尋ねる。
「戻らなきゃ」
スウクはダーツの矢を放る。
矢は「韓国」に刺さる。
ハジョンは、逃れられない現実に辛くなる。
「幼 い頃、海になるのが夢だったの。
みんなの涙を集めながら、
世界中のどこへでも行ける海に。
でも、오빠(オッパ)のおかげで叶った。
広い世界を見せてくれた。
오빠(オッパ)、スノー・クイーンは勝つかな?」
ハジョンは尋ねる。
「うん」
スウクは答える。
スウクの横顔をみつめるハジョン。
「目を閉じて。오빠(オッパ)もお祈りしなきゃ」
ハジョンは言う。
そして、目を閉じたスウクの頬にキスをする。
戸惑うスウク。
思わず、ハジョンを引き寄せキスをしてしまう。

衝撃と嬉しさのあまり、
雨が降る中、濡れながら自転車で走るハジョン。





翌 日、ソヒョンが心配停止状態だと聞き、
急いで自転車を漕ぐスウク。


一 方、雨に濡れたハギョンは、熱を出してしまう。
しかし、熱よりも心の方が重症だった。
ハギョンは父に問う。
「母さんを愛してた?」と。
「愛してたから結婚したんじゃないか」
父は答える。
「でも、母さんは父さんと結婚すべきじゃなかったんじゃ?」
ハギョンは告げる。

電 話のつながらないスウクを店の中で待つハギョン。
「入る?」
スウクがやってきて尋ねるが、ハギョンは首を横に振る。
スウクはおもいあぐねて、語り始める。
「事故だった」と。
「ソヒョンと旅行に行くつもりで旅行代理店に行く途中だったと。そこへ車が突っ込んできて....」
スウクの言葉をハギョンは遮る。
「大丈夫だったんでしょう?」
と、ソヒョンの安否を尋ねる。
「うん、大丈夫だった」
スウクは答える。
「よかった」
ハジョンはそう言って、去って行く。
ハ ジョンはソヒョンのお見舞いに赴く。
意識のないソヒョンに語りかけるハジョン。
「언니(オンニ)、오빠(オッパ)が언니のこと、
すごく好きなこと、私もわかってます。
それでも私は오빠が、
もっと広い世界に出会えたらいいのにと思います。
ごめんなさい」



そ の夜、古本屋にソヒョンが現れる。
(これは幻と表現すればいいのか、
幽体離脱と言えばいいのか... とにかくソヒョンです...)

驚いて言葉に詰まるスウク。
「嬉しくないの?」
ソヒョンは問う。
「あぁ、連絡もせずにどうしたんだ?体は大丈夫か?」
スウクは尋ねる。
「うん、よくなったわ」
ソヒョンは答える。
「それより、その眼鏡まだ使ってるんだ?私は何歳なの?」
ソヒョンは尋ねる。
「23... いや、24だ」
スウクは答える。
「死ぬには少し惜しい歳よね?
12回以上も手術して、実はあなたをすごく恨んだ。
そのまま死なせて見捨てればいいのに、
なぜ生かして苦しめないで。
でも、あなたの声を聞きながら、いつも思ってた。
早く元気になってスウクと旅行に行かなきゃ。
そうできたら、すごく幸せだわ。
そのためにも、スノークイーンが早く優勝すべきなのにね。
そうでしょ?」
ソヒョンは語る。
「優勝するさ」
スウクは答える。
ソヒョンは笑う。
「いい人みたいね」
壁に貼られた世界地図を見ながら告げるソヒョン。
そして、ソヒョンは消えた。
涙がこみ上げるスウク。
店の中で、一人慟哭するスウク。
ハ ジョンはスウクへのプレゼントを持ってやってきたが、
泣いているスウクに気づき、渡せぬまま帰る。






ス ノー・クイーンの出場するレース。
ハジョンは、場内のスウクを探す。
そして、渡せなかったプレゼントを渡す。
それは、新しい眼鏡だった。
「目が悪くなるわよ」
ハジョンは告げる。
スウクは割れた眼鏡を外し、新しい眼鏡をかける。
「ありがとう、大事にするよ」
スウクは礼を言うと、再び割れた眼鏡をかけた。
「前の眼鏡はどうするの?捨てることができる?」
ハジョンの言葉に、スウクは言葉に詰まる。
「오빠(オッパ)に初めて会った時、
遠くを見る眼差しがステキだった。
でも、もう新しい眼鏡もできたからそれを使って、
そばにいる人もちゃんと見てくれたらいいのに」
ハジョンは告げる。
スウクは割れた眼鏡を外す。
「誰かを愛する機会が、人生に何度もあるか?
ソヒョンがあんな風になって、随分迷った。
俺のすべきことは何か。
俺がしたいことは何か。
そうするうち、夢を見た。
広い野原で子供達が遊んでいて、
大人は俺一人だけで、
だが、俺は遠い断崖のそばに立っていた。
遊んでいた子供達が落ちそうで、
『早く掴んでくれ』と...
俺はただ、ソヒョンが落ちないよう助けたいだけだ」
スウクは告げる。


ス ノー・クイーンが目の前を必死に走っていく。
ハジョンは結果を見るのが怖くて、場外に出てしまう。




場 外に出てきたスウクにハジョンは尋ねる。
「勝ったの?」
「負けた。でも、次は勝つさ」
スウクは告げる。
「오빠(オッパ)にお願いがあるの」
ハジョンは告げる。
「すごく難しい頼みなの。不可能かもしれないし」
ハジョンは言う。

ハ ジョンは朝、スウクをカフェに呼び出す。
スウクに新聞を読ませるハジョン。
「スノー・クイーンが本当に勝つと思ってるの?」
ハジョンは尋ねる。
「うん」
スウクは迷わずに答える。
「一度も勝てないのに?」
ハジョンは尋ねる。
スウクは答えない。
「勝ったら大当たりね。私も必ず賭けないと」
ハジョンは言う。
「それより、俺に頼みってなんだ?」
スウクは尋ねる。
「かなり難しいことだったけど、叶っちゃった」
ハジョンは告げる。
「何?」
スウクは尋ねる。
「こうして朝早くに並んで座って新聞を読むこと」
ハジョンは答える。
スウクはわけがわからない。
「こんな時間に顔を見るなんて奇跡じゃない」
ハジョンは笑う。
「それはそうだな」
スウクも笑う。
その時、スウクの携帯にメールが....


「今 朝早く、ソヒョンさんが亡くなりました」
スウクはショックのあまり、携帯の画面をみつめたまま、
身動きさえできなかった。




そ してスウクは、何も告げずに去って行ってしまった。
ハジョンは古本屋で、一人スウクの名残を感じていた。





家 族で母の墓参りにでかけるハジョン。
ハジョンは、父に尋ねる。
「父さんは、母さんを恨まなかったの?」
「まだ、母さんのことが憎いのか?」
逆に父は尋ねる。
ハジョンは語り始める。
「学校から帰れば、酔った母さんを捜し回りながら、
母さんが早く死んだらいいのに...
そんなことをいつも考えた。
母さんがいなければ、からかわれることもなく、
母さんがいなければ、兄さんが家を出ることもなかった。
実はね、父さん。
あの時、母さんに聞こえるように言ったの。
母さん、お願いだから早く死んで。
母さんのせいで、すごく辛くて、恥ずかしいの....」
「母さんは、母さんの人生を選択しただけだ」
父はハジョンを慰める。
「私はどんな人でも大好きだったのに、
오빠(オッパ)も去って...
兄さんのように...
母さんのように...
あの人を忘れられない오빠(オッパ)も許せなくて、
彼の全てを持って行った、あの人も憎い。
兄さんが憎くて、
母さんも憎い。
私が罰を受けるわ、父さん。私が...
ごめんなさい、母さん....」
ハジョンは涙を流す。
そ して時は流れ──

ハジョンは目標だった公務員試験に合格し、
洞事務所で働いていた。




仕 事の合間、スノー・クイーンのレース中継を
パソコンで見守るハジョン。
ハジョンは毎回欠かさず、馬券を買い続けていた。
そしてその日、スノー・クイーンが初めて優勝した。
そして、本当に奇跡が起きた....


軍 隊に行き、休暇で家に帰ったスンフィ。
きっちりと敬礼し、
「ただいま帰りました」
と、しっかり挨拶するスンフィ。
スンフィために食事を作り待っていた父。
いつかハジョンが話した夢の話が、現実になった。
「留守の間、退屈ではなかったですか?」
スンフィは敬語で話し、父を気遣う息子に成長していた。
「老いていくほど、歳月は早いものだ。
お前も歳を取ってみろ」
父は言う。
「아버지(アボジ)、再婚しなきゃ」
아빠(アッパ)ではなく、아버지(アボジ)と父を呼び、
息子らしい会話をするスンフィ。
「料理の上手な女性軍人がいたら紹介してくれ」
二人はすっかり仲のよい親子のようになっていた。
「姉さんから連絡はないの?今どこにいるの?」
スンフィは尋ねる。
「どこでどうしてるのか、なぜ俺にわかる」
父は嘆く。
「あ、お前に何か送ってきてたぞ」
父は思い出して荷物を持ってくる。
「写真みたいだ」と、父は言う。
「どこから?フランスからみたいだけど」
スンフィは言う。
「これはどこだ?」
父は尋ねる。
仲のよい親子の会話。
そ してハジョンの部屋の壁に貼られた世界地図。
そこには、世界中を旅したハジョンの写真が、
国ごとに貼られていた。

END

スノー・クイーンが優勝した日に起きた奇跡については、
まったく触れていません。
父とスンフィが仲のよい親子になり、
ハジョンが見た夢が現実になったのも
奇跡といえるかもしれませんが、
スウクが突然戻ってきて、
二人で世界を旅しているのではないかと、
想像してしまいますね。

結果を明らかにしなかったのは、
諦めずに走ることが大事だということを
強調したかったからではないでしょうか。



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