シークレット・サンシャイン  Secret Sunshine 
 原題:密陽 밀양(ミリャン) <2007>

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密陽

夫 も息子も全て失った。あなた なら、それでも生きて行けますか?

シネ(チョン・ドヨン)はピアノ教室を開いた。今や通帳の残金はほんのわずか。しかし彼女は、’可哀想な人’と思われたくなく、隣人に「良い土地があった ら紹介してくれ。家も欲しいし、投資にも興味があるの」と、見栄を張り、死んだ夫の故郷’密陽(ミリャン)’で、新しい生活を始める。死んだ夫の故郷に、 ポツンと移住した母と子を不憫に思う人々に「私は、一つも不幸じゃないわ」と話し、颯爽とふるまうが、そんな中、息子ジュンをも失う。かくれんぼがとても 好きだったあの子は、永遠に姿を消してしまった。

円を描く様に、彼 がウロウロ周辺を回り始め る…

友達好きで、喫茶店の女の子のスカートの中が気になるジョンチャン(ソン・ガンホ)は、密陽(ミリャン)で暮らそうとソウルから引っ越してきたシネと出会 う。住む家を探してあげ、ピアノ教室の雑用にも気を遣い、彼女にくっついて土地を見て歩きながら、彼の一日の日課が始まる。時折突発的にヒステリーを起こ し、滔々とした意地を張るその女性は、自分に関心を持つのはやめてくれと、彼を突き放す。それでも…何故か彼女が気にかかる。

こんな愛情もあ る…!

彼女には残ったものがないようだ。泣いて泣いて…ただ一人で吐くように泣いている。すべての事を忘れたいが、すべての怨望を放り投げたいが、できない。そ して今、彼女は闘うために彼女だけの逸脱を始める。今日もジョンチャンは、そんな彼女の周辺をウロウロ回るだけだ。すべての愛を無くした女性と、自分の 気持ちもよく分からない俗物のような男。果たして、愛は…芽生えるのだろうか?
韓国公式:http://www.secretsunshine.co.kr/
日本公式:http://www.cinemart.co.jp/sunshine/

【予告編】

監督 イ・チャンドン(李滄東) <1997>グリーンフィッシュ、<1999>ペ パーミント・キャンディー、<2002>オ アシス
<2007>シークレット・サンシャイン、 <2010>詩

出演

チョン・ドヨ ン(全度妍)

出演作品一覧

ソン・ガンホ (宋康昊)

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【レビュー&ネタバレ】
2008年6月日本公開。

文化観光部長官(日本の大臣に相 当)を歴任していたイ・チャンドン監督が、
オアシス以来、5年ぶりに メガホンを取った忠武路(チュンムロ=韓国映画界)復帰 作。
そして、カンヌ映画祭で、チョン・ドヨン が主演女優賞を受賞。
ベルリンとベネチアを含めた世界3大映画祭での受賞は、1978年<シバジ>のカン・スヨンが
ベネチア映画祭で主演女優賞を受賞して以来20年ぶりのこと。
当初、この映画自体も受賞作品となるのでは?と予想されたが、惜しくも逃した。

確かにチョン・ドヨンは名女優。
それがあまりにも当たり前になってしまっているから、この映画を観ても彼女の演技の凄さを痛感できず....
既に受賞していてもよい演技を今まで見せてきていた証拠ですわよね。
この映画を観ていても、チョン・ドヨンはさすがだな、という感じ。
ちょっと時々鼻につくような演技があって苦手なんですが。

ソン・ガンホは少々もったいない........
彼じゃなくても.... というような役ではないでしょうか。
ソン・ガンホが演じるからこそ、可愛らしく、ただの俗物男でもなく、ただの人のよい男でもない。
調子がいいといえばいいけれど、信頼できる男。
地味な役だけれど、ソン・ガンホ演じるジョンチャンはとっても好きです。

カンヌ映画祭での主演女優賞。ということで、話題を集めたこの映画。
結果的には、動員数は171万人。
やっぱり万人向けの大作ではないので、この程度なのでしょう。
イ・チャンホ監督の作品、特にペパーミント・キャン ディーと同列です。
他の作品が苦手なのであれば、この映画はオススメできません。
ペパーミント・キャンディー は、ある不幸を機にどんどん人生を転落していく男の物語ですが、
この映画も、相次ぐ不幸の中で、自分と戦いながら前向きに生きようと葛藤したり、自分を失ったり、
すべてを恨みたくなったり...と、耐え難いほどの不幸が重なれば、人間はこうなっていくもの....
夫も息子も失った。それでも、あなたは生き ていけますか?
まさに身につまされる映画。
この映画のヒロイン、シネだけがそうなるわけではない。
誰でも第2のシネになりえるのです。
今ある幸せを振り返り感謝しつつ、シネの人生に深く同情することでしょう。
ただ、その同情も、シネにとっては少しもありがたくないわけで、
それが2つ目の不幸も引き起こしてしまうわけです。

夫の死と共に、夫の浮気が発覚し、知り合いのいない密陽市に移住するシネ。
「密陽って、秘密の太陽って書くの。ステキよね」
シネはこの街に希望を抱いてやってくる。
この映画のタイトルは都市の名前ですので、「みつよう」ではなく、「みりゃん」と覚えましょう。
ミ リャン市は、釜山の 上の方にある地方都市。映画トンケの蒼い空の舞台にもなって おります。
この街で暮らす人々の優しさにつつまれながら....
なんて、ヒューマンドラマではなく、引っ越した早々からシネは傷つくことになる。
親切のつもりで言ったことで、「頭おかしいのよ、あの人」と、陰口を叩かれることになり、
見栄を張り、肩肘を張って生きようとする。
そんなシネを、クリスチャンである薬局の奥さんは
「あなたのような人こそ、神の愛が必要なのよ」と、集会に誘う。
’何も、誰も信じない’と心に誓っていたシネ。
けれど、息子のジュンをも失った時、支えがなくなり、心のバランスを崩してしまう。
無意識に教会に足を運んでしまい、神父の温かさにすがるように泣き崩れるシネ。
’神’という支えを得て、宗教でつながった友人も出来、シネはようやく明るく前向きに生き始める。
「敵を許す」という神の教えを実践しなければと、
息子ジュンを殺した犯人(弁論塾の塾長)を許すそうとまで考え始める。
しかし、犯人を許そうと面会に行ったことで、シネは再び自分を見失い、狂っていく。
自分が犯人を許そうとしたのに、服役した後クリスチャンになった犯人は、
’神’により既に許されていたの だった。
犯人の満たされた幸せそうな顔。
なぜ、神が許すの?
シネは神への不信感を募らせ、万引きしたり、集会で「嘘」という曲をかけたり、ガラスを割ったり、
信者である薬局の主人を誘惑し、セックスしようとしたりと、神を冒涜し始める。
そんな時も、シネを見守るジョンチャン。

何も信じない、と頑なに生きるシネも、
’神’という支えを得て、幸福そうに微笑むシネも、
犯人と面会し壊れていくシネも、痛いほどに理解できて..........
自分のために祈ってくれている人たちに対し、石を投げつけガラスを割るなんて何事だ!
だなんて、とても責められない。
シネだけが苦しく、不幸なわけではないけれど、
これだけの不幸を抱えて生きていくことは並大抵の苦しみではないわ。
優しく優しく抱きしめてあげたい。
ジョンチャンのことだけでも受け入れることができたら........
シネの幸せを心から祈るしかありません。

ラスト。どう解釈してよいのか難しいところですが、
ようやくシネの心に他人の心が触れ合ったことは、これからの未来が明るいことを予感させますね。
「持ってやるよ」
というジョンチャンの好意も素直に自然に受け入れるシネ。
カメラは徐々に床に移り、一筋の光を捕らえる。
どこにでも差し込むような特別ではない日の光。
それこそが、人生において幸せであり、希望である。
ようやく、シネの人生にも希望が差しはじめた。

ちなみに原作では、犯人を許せず、ヒロインは死を選ぶそうです。





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