クロッシング    Crossing  
 原題:クロッシング 크로싱(クロッシン) <2008>

 オススメ

 ストーリー

 韓流王道

 泣き

 笑い

名作

 映像

×

×




2007年北朝鮮。中国との国境に近い咸鏡(ハムギョン)南道にある炭鉱村コ ウォンの3人家族... 父ヨンス(チャ・インピョ)、母ヨンファ(ソ・ヨン ファ)、そして11歳の息子ジュン(シン・ミンチョル)は、豊かでない人生だ が、一緒にいられるだけで幸せだ。

ある日母が倒れ、肺結核という事実が明らかになり、簡単な風邪薬さえ手に入らない北朝鮮の現状に、父ヨンスは中国行を決心する。
 
やっとの思いで中国に到着したヨンスは、材木伐採場で働きながら、金を貯めるが、不法就労が発覚し、貯めた金を全て失い警察に追われる身と なる。

一方、ヨンスが出かけて2月余りが過ぎ、妻ヨンファの病状はますます悪化し、ついには亡くなってしまう。たった一人残された11歳のジュンは、あてもなく 父を探しに旅立つ。

韓国に到着したヨンスは、ブローカーを通じてジュンの行方を知り、不可能と思われる再会を試みる。しかし、父ヨンスと息子ジュンの切実 な約束は、もどかしくも行き違ってしまう。

日本公式サイト:http://www.crossing-movie.jp/

【予告編】

監督 キム・テギュン(金泰均) <1998>ファー スト・キス、<2001>火山高、 <2004>オオカミの誘惑、<2004>20のアイデンティティ
<2006>百万長者の初恋、<2008>クロッシング  祈りの大地 <2009>彼岸島(日韓合作)、
<2010>裸足の夢

出演

チャ・インピョ

<1996> アルバトロス、<2002>アイアン・パーム、<2003>ボリウルの夏、<2004>木浦は港だ、
<2006>韓半島、<2007>クロッシング 祈りの大地

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【レビュー&ネタバレ】
2008年6月韓国公開。観客動員数は、約94万人。
2008年10月24日。第21回東京国際映画祭「アジアの風」部門で上映。
2009年春には、「クロッシング 祈りの大地」として、日本公開。

またまた再上映が決まりました。
今度は原題のまま「クロッシング」として、4/17(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開されます。


北朝鮮は、日本とは切っても切れない国であり、
今現在も、様々な物議を醸し出す国である。
散々ニュースや話題に取り上げられる国であるので、多少なりとも、北朝鮮の現状は皆さん御存知でしょう。
しかし、この映画は、ニュースやなどでは取り上げられない北朝鮮の国民の現状を、
「映像」という伝わりやすい手段にて、訴えかけます。

この映画は、2002年に北京のスペイン大使館へ逃げ込み脱北した25人の事件をモチーフにしています。
但し、脱北に関わるブローカーなどの話はフィクションです。
あくまでも、自らの意思で脱北した事件です。
この事件は、かなり大騒動となり、その後、中国当局、北朝鮮国境付近の監視が厳しくなり、
脱北者の数は激減しているそうです。
(脱北する人が減ったのではなく、捕まる人が増えたとも言えるのかもしれませんが....)

また、この映画には、”盗作疑惑”が浮上し、上映禁止訴訟が行われました。
ユ・ジュサン氏の一代記を、イ・グァンフン監督が”人間の条件”という映画として脚本を制作したが、
クロッシングの内容が、ユ・ジュンサン氏の脱北過程を描いていると、訴えたのです。
結局は、訴訟は棄却され、上映が決まりましたが。

「こうした現実、事実があることを知り、胸が痛んだ。これは作られるべき作品だと思った」と、
キム・テギュン監督は語っています。
「今この瞬間にも、国境を越えようとしている人、食糧がなく餓死している人、脱北の途上で命を落としている人がたくさん いる。そうした人々に関心を持ってほしい」と、訴えた。

「今、作られるべき作品であり、このような状況を海外にも知らせる必要がある」
というように、ホン・ジヨンプロデューサーも考えたのでしょう。

実際、この映画を見たら、否が応でも考えさせられ、北朝鮮の現実に関心を持つことでしょう。
監督やプロデューサーの意図は、必ず観客に伝わることと思います。
そして、もう一つ注目すべきことは、
”他人の不幸を利用する人間”の醜さです。
”北朝鮮”の真実だけではなく、人間の醜い側面、本性というものを感じずにはいられないでしょう。

「今、作られるべき作品」ということには、mocaも非常に同感です。
ですが、”面白い映画” ”感動する映画” とは、ちょっと違います。
感動や涙を求めるならば、遠慮した方がよいでしょう。
”運命に翻弄される父子の悲劇”を描いておりますが、泣ける泣けないという観点から言えば、
かなり本人の感性に左右されると思います。
元々、キム・テギュン監督の映画は、どの映画も中途半端で楽しめません。
百万長者の初恋が、例えにはもってこいかも しれません。
この映画は、韓流の王道も王道、悲しいラブストーリーです。
ですが、この映画で泣けた方は、どれくらいいるのでしょうか?
mocaは泣くどころか、シラケました。
この映画の”悲劇”も同様です。
あまりにもやりすぎて劇的すぎる上に、
キム・テギュン監督は、人の心の琴線に響くような映画を作るのが下手なようです。
ジュンの”雨好き”も、度が過ぎた伏線で、少しも感動しません。

この映画は、”楽しむ”映画ではなく、考える映画です。
現在の北朝鮮を知り、考えることが重要だと考える方には、
今までと違った北朝鮮の側面が見えるかもしれません。

評価の”名作”に”◎”をつけたのは、”名作”が好きな人には薦められる映画ということで、
決して”名作”ではありません。
いわば、”芸術作品”です。
重要な映画であることは間違いありませんが。
このような趣向の映画を好む方にとっては、かなり満足度の高い映画のようです。
但し、娯楽映画が好きな方は、不満だけが残るでしょう。
”興行的成功は期待できない”と、誰もが思った映画。
それでも、この映画の制作費40億ウォンの約半分を投資した
大宇グループの元会長の息子キム・ソニョン씨のように、
この映画に”意義”を感じる人も、少なくないことでしょう。
ただ、北朝鮮の国民に、手放しで同情するのも考えものです。
支援、支援といったって、
現在の北朝鮮の体制では、権力のある者が横領、搾取するばかりで、
権力者だけを肥えさせることになりかねません。

この映画を制作するにあたって、キム・テギュン監督らは、
100人近い脱北者へのインタビューを入念に行っ た上で、事実に基づいた脚本を仕上げたそうです。
しかし、100人もの人間からのインタビューで得たエピソードを、
たった1組の家族の人生に詰め込んだら、
壮絶も壮絶、
リアリティーを追求するがために、逆にリアリティーを失う結果になったのでは?
この映画はフィクションでも、”ありのままの現在の北朝鮮の国民の生活”を知るには、
かなりリアルに近いものがあると思います。
しかし、結果としては、かなり胡散臭いストーリーになってしまったのでは?
”クロッシング”というタイトル通り、とにかく父と子は徹底的にすれ違ってしまいます。
そのすれ違いぶりも、ちょっとやりすぎなんじゃ?
と、残念で仕方ありません。
これだけ無情で残酷な悲劇なのに、全く胸に迫ってこないのは、mocaの感性が問題なのかしらね。

内容的にはともかく、
この映画では収容所の悲惨さや、国境付近を”物乞い”をして生きながらえる孤児たちの悲惨さを描いた
大変意義のある映画です。
北朝鮮の悲惨さと、恐ろしさを痛感できることでしょう。
それだけでなく、私たちが”豊かさ”と引き換えに失ったものも、見えてくるのではないでしょうか。



***

北朝鮮で起きた食料危機により、200万人が餓死したことはニュースにもなりました。
(北朝鮮の人口は、約2300万人)

まず、労働党、政府、軍、秘密警察の幹部など、権力を持つ者が食糧の横領を始めた。
だが、権力機関に所属していても末端の者には食糧が十分に行き渡ら なくなった。
こうして、各種機関の規律が低下した。
特権階層の人々でさえそのような状態にあるため、
途中で幹部に横領される一般国民への配給は一層厳しい ものとなり、配給が停止する地域が増加していった。

***

このニュースはわりと話題になりました。
ですが、肝心の北朝鮮の国民たちは、この事実を全く知らないのです。
それは、北朝鮮における”徹底した情報遮断”のせい。
外部からの情報を遮断することで、国民たちを労働党、政府らの思い通りにマインドコントロールできるわけ。
これは、皆さんも感づいていることでは?
北朝鮮では、テレビもラジオも新聞も、他国からの客観的情報が入らぬよう、遮断している。
テレビやラジオは、他国の番組を受信できないよう、あらかじめ周波数がハンダ付けで固定されている。

但し、2002年以降、韓国のテレビ放送を視聴する国民が急速に増えはじめた。
2002年の経済改革措置で中国製テレビなどが大量に流入したため、
当局による情報規制は事実上難しくなっている。
韓国からの電波が届く平壌より南側に位置する地域では、
テレビを買えば韓国の放送を自由に見られる状態になっているだけでなく、
総合市場の拡大により、テレビやビデオの商取引が増加している。
韓国のテレビ番組を録画した録画物にも、北朝鮮は敏感になり、徹底的に取り締まりを行っている。
資本主義思想や文化が流入してくれば、国民の価値観が多様化し、
旧東欧社会主義圏のように体制が崩壊する可能性があると考えているからである。
ミソンの父も、周囲に気を使いながらテレビを見ていたのは、徹底的な取り締まりがあるせいである。

***

こうして、北朝鮮という国は、国民をマインドコントロールさせ、
何が正しく、何が間違っているのか、徹底的に”偽り”を脳裏に刷り込んでいるのである。
食糧難になったことの真実も、国民たちは知らず、
配給されている食糧は、”将軍”という独裁者からの支援だと思い込んでいる。
実際は、他国からの食糧支援だというのに。

***

食糧支援の筆頭国は、隣国である韓国である。
しかし、北朝鮮が韓国李明博政権との敵対的関係を深めるにつれ、食糧不足問題が深刻になってきた。
7月に韓国人女性が北朝鮮に観光に訪れ北朝鮮兵士に銃殺されたのを受け、
韓国国内での北朝鮮 に対する世論が冷たくなっていた。
また北朝鮮も、韓国李明博政権が北朝鮮に対する外交における強硬路線をとっていることを受け、
韓国からの直接の食糧支援 を拒絶した。

北朝鮮の過ちだらけの姿勢と政策というものが、よくわかりますね。

***

国民が皆、水で空腹を満たし、飢餓で苦しんでいる。
手を差し伸べてくれない国を見切り、脱北者の数も増加した。
それでもまだ、金正日を”将軍様”と、神のように思い込んでいる国民もまだまだ多い。
あれほどの飢餓で、食料暴動が起こらなかったことも、それを証明している。
これは、戦前の日本と似ているのではないでしょうか。
”天皇は神”
そして、”国”のため、”天皇のため、「天皇万歳!」と死んでいった何も知らぬ若者たち。
日本も、教育などにより、マインドコントロールされていたというべきであろう。
本当に恐ろしい。
北朝鮮に今必要なのは、国民に”真実”を受け入れさせることではないでしょうか。
マインドコントロールから解き放ち、独裁国を許さない。
日本も、戦後の何もない状態から、今ここまで豊かな国へと成長しました。
何かといえば”核”を脅しに支援を要求する北朝鮮。
支援を受けながらでも、まず自らの足で立つことを覚えなければ。

【キム・ヨン ス】
炭鉱夫
チャ・インピョ
【キム・ジュ ン】
ヨンスの息子
シン・ミョンチョル
【ミソン】
サンチョルの娘
チュ・ダヨン
 
【ソ・ヨン ファ】
ヨンスの妻
ソ・ヨンファ
【サンチョル】
ヨンスの親友/中国との貿易商
チョン・インギ
 

チャ・インピョは、妻シン・エラと共に、韓国でも”ボランティア活動”や”寄付”などの善行で有名な俳優です。
今では、俳優業よりも、ボランティア活動に力を入れているそうです。
実際に、チャ・インピョ夫妻は、実子である長男の他に、二人の子供を養子として向かえています。
また、全世界の30人と親子の縁を結び、
最近でも、ハイチ大地震による復旧のために1億ウォンを寄付しています。
チャ・インピョは、一旦はオファーを断ったそうです。
「脱北者が、世界のどこでも歓迎されないように、この映画も歓迎されないのでは?」と。
しかし、”餓死した北朝鮮の子供の写真”を見て、この映画への出演を決意したそうです。




↓ 結末までネタバレしますので、ご注意を ↓


炭鉱村で、炭鉱夫として、
家族三人、仲睦まじく暮らす元サッカー選手のヨンス。


家に帰れば、可愛い息子ジュンが待っている。
サッカーが好きなジュン相手に、
ディフェンスの練習をするヨンス。
そこへ雨が降ってくる。
「雨が好きだ」
とジュンは喜ぶ。
雨の中、二人はボールを蹴りあう。



食糧難に苦しむ北朝鮮。
しかし母は、育ち盛りのジュンのために、
たくさんの食事を盛ってやる。

ヨンスの親友サンチョルは、中国と北朝鮮を行き来しながら貿易をしている。
持ち帰るものの半分は賄賂であり、
貧しい北朝鮮の中では、まずまずの暮らしぶりだ。
今回は”洋酒”を持ち帰ったと、洋酒を知らないヨンスに、
「飲もう」と、勧める。
ヨンスはふと気づく。
文字を見るだけで頭が痛くなるというサンチョルが、
本を持っているのだ。
それは聖書だった。
しかしヨンスは、聖書すら初めて見る。
サンチョルは、説明してやる。
「これは、ただの本じゃないぞ。
日々の良識を教えてくれる。
天からの幸福を降り注いでくれる大事な生命の本だ」
興味を持ったヨンスは、「読んでみる」と、本を借りる。
サンチョルは忠告する。
「この本のことは、秘密だぞ」と。
サンチョルの娘ミソンは、ジュンを部屋へ招き入れる。
そして中国の叔母が買ってくれたと、
「自動鉛筆削り」をジュンに見せる。
あっという間に削られる鉛筆に、ジュンは圧倒される。
「この部屋に入った男の人は、パパ以外で初めてよ」
ミソンは言う。
二人の間に芽生えている淡い恋心。
ジュンは、言葉に詰まり、
「サッカー中継だ!」
と、テレビの方へ逃げて行く。
サンチョルの家には、中国製のテレビがあった。
北朝鮮のテレビは、他国の電波を受信できぬよう細工されているが、中国製のテレビならば、韓国の電波が受信可能だ。しかし、他国の番組を観ることは、厳し く取り締まられている。
サンチョルは用心深くカーテンを閉め、ジュンに言う。
「この番組を観たことを口外してはいけない」と。
韓国のサッカー選手に、心躍るジュン。
ヨンスは、恨み言をぶつける。
「たくさん食べてるから、たくさん走れるんだ」と。
北朝鮮の食糧難は深刻だ。
ヨンスらは、水で腹を満腹にするしかない。
それでも、せいぜい1、2日が限度。
こんな毎日に、皆がウンザリしていた。


ジュンはミソンの教室を覗き見する。
ミソンに気づかれると、ジュンは逃げて行く。
「ジュン!私のこと探しに来たの?」
ミソンは尋ねるが、
「そんなわけないだろう」
と、ジュンは突っぱねる。
ミソンはジュンに「はい」と、ガムを手渡す。
「いらない」
と、ジュンは突っぱねる。
「これはバブルガムって言って、噛んだ後強く吹くの」
と、説明する。
するとジュンは、無言で奪い、そのまま逃げて行く。
ジュンの後ろ姿を、微笑ましく見送るミソン。
ヨンスは慌てて家に向かう。
妻ヨンファが倒れたというのだ。
病院に行ったところ、栄養失調で肺結核になったと。
その上、妊娠までしており、妊娠中毒症が強いと。

ヨンスは医師の元を訪れる。
ヨンファは、このままでは危険だと。
妊婦用の結核の薬を入手するのは難しい。
だが、薬が入手できれば、手をつくすと医師は語る。

ヨンスは薬売りを回り、薬を探す。
しかし、北朝鮮で薬を入手するのは困難だった。


ヨンスは聖書を読む。
そこへジュンが話しかける。
「人が死んだらどうなるの?」と。
ジュンはミソンから聞いたと。
「人が死ねば、死んだ後の世界があり、
死んだ後も、また会うことができると、
ミソンの父が言っていたと」
ヨンスは否定的だ。
「死んでもいないのに、なぜわかる」と。
しかしジュンは言う。
「僕も、死んだ後、違う世界があればいいなと思う。
そこでまた、父さんと母さんと一緒に暮らしたい」と。
ヨンスはサンチョルに相談する。
ヨンファは、このままでは死んでしまう。
何とか薬を入手できないかと。
「中国に問い合わせてみる。俺に任せろ」
サンチョルは、ヨンスを安心させる。
「世話になりっぱなしだ....」
ヨンスは申し訳なそうにつぶやく。
だがサンチョルは、笑ってヨンスの肩を叩く。


しかし、思わぬことが待ち受けていた。
その晩、サンチョルは逮捕されてしまったのだ。

中国製のテレビで、韓国の番組を見ていたことがバレ、
その上、サンチョルが韓国人と会ったり、
教会まで行っていたことまで、掴まれていた。
「お前はスパイをしていたのか?」
疑いの目を向けられるサンチョル。
必死に否定するサンチョル。
しかし天井からは、大量の聖書と札束がみつかった。
「許してください。私が間違ってました」
必死に許しを乞うサンチョル。
しかしサンチョルは逮捕されてしまう。

翌日、話を聞きつけたヨンスは、サンチョルの家に向かう。
そこは荒らされ、もぬけの殻だった。
呆然とするヨンス。
同時に、妻ヨンファの薬を入手する手立ても断たれたことになる。
絶望の淵に追い込まれ、気力をなくすヨンス。
しかも、家に残された食料は、ほぼ尽きていた。




この先のことを案じるヨンス。
そこに目についたのは、ジュンの愛犬ペッグだった。


久しぶりの肉料理に、ジュンは嬉しくて仕方ない。
「今日は何の日?
記念日でもないし、誕生日でもないし.....」
そして、肉の骨をペッグにやろうと、ペッグを捜す。
そしてジュンは気づく。肉はペッグの肉だったのだと。
「ペッグをどうしたの?ペッグを返して!!」
ジュンはヨンスを責める。
そして、食べた肉を吐き出してしまう。
それに対し、ヨンスはジュンを叱責する。
「犬畜生と、お前の兄弟のどっちが大事なんだ!」と、
ジュンを怒鳴りつけるヨンス。
ヨンスは、サンチョルの家にあった中国製のテレビを持ち出し、市場で売買した。
そして、その金で食料を買い込んだ。



それは、ヨンスが妻の薬を買うために、中国行きを決意したため、当分の間しのげ るよう食料を蓄えておくためだった。
「本当に中国へ行くの?」
ヨンファは心配でならない。
「ここで飢えるよりはマシだ」と、ヨンスは言い放つ。
息子ジュンも、父が心配だ。
「父さんはすぐ戻る。
ジュンのサッカーボールと靴も買ってな。
その間、母さんの面倒看る自信あるだろう?」
ジュンは頷き、母を世話すると父に約束をする。


国境を分かつ、豆満江。
ヨンスは川を渡り越境を試みる。
しかし、川の中で脱北に失敗した者の遺体を発見し、
ゾっとする。
そして、小声で声をかける者が。
ヨンスと同じく脱北を試みる老人だった。
その時、北朝鮮の警備に発見されてしまう。
みつかってしまった老人は、捕まってしまう。
ヨンスは老人に、自分のことは黙っていてくれるよう
懇願する。
その頼み通り、老人はヨンスのことは話さなかった。
老人がリンチ同然に甚振られている声を聞き、
恐怖に震えるヨンス。

無事越境し、中国の材木伐採場で働き始めるヨンス。
そこにはヨンス同様、北を逃げ出してきた仲間ばかりだ。

ヨンスは、妻や息子の為、ひたすら金を貯めた。

しかし、そうしているうちに、2ヶ月近くが過ぎようとしていた。
北朝鮮の家では、食料も尽き、
妻ヨンファは、病状も悪化するばかりで、
生も根も尽きていた。


そんな頃、公安(警察)が取り締まりにやってくる。


逃げ惑う北の仲間たち。
次々と捕まっていく中、ヨンスは何とか逃げ延びるが、
金をしまっていたウェストポーチを落としてしまう。



「手ぶらでは、家に帰れない....」
ヨンスは、肩を落とす。

その時、脱北をサポートするブローカーが現れる。



ブローカーは、おいしい話を提示する。
ある場所に行って、インタビューを受けるだけで金を払うと。
皆は疑ってかかる。
騙されて腎臓を売られるんじゃないか。
公安に捕まって死ぬ危険を覚悟でできるか!
ここに留まる。

しかし今のヨンスは、金が全てだった。
ヨンスは、ブローカーの話を受け入れる。


その頃、死期を感じていたヨンファは、
息子に自分の指輪を預ける。
「これは結婚する時に、ヨンスがくれたもの」だと。
「ジュン、あなたが持っていなさい」と。
ジュンは母の意を察知した。
「どうしてそんなことを言うの!」
ジュンは母に泣きすがる。
「母さんのせいで、可哀想なジュン... ごめんね....」
母は涙を流す。








ヨンスらは、中国駐在の日本大使館に駆け込む。
ヨンスは公安の警備の手から逃れ、無事大使館の中へと
侵入することに成功する。


飢えたジュンは、物乞いをする孤児らをみつめていた。
そして自分も同じように物乞いし、食べ物を手に入れる。
病気の母に食べさせようと、
意気揚々と家に戻るジュン。
しかし、母は既に息を引き取っていた。

母の遺体は、役人らによって搬出される。
「連れていかないで!
母さんを守るって父さんを約束したんだ!」
ジュンは泣き叫び、トラックを追って行く。






一方、大使館に駆け込んだヨンスらを題材に、
NGOの記者会見が開かれていた。
テレビに顔丸出しで自分が映っていることに
驚愕するヨンス。
まさか、自分が”亡命”させられるなどとは、
夢にも思っていなかった。
全てブローカーに騙されたのだ。
北朝鮮の飢餓などの問題を考えるNGOの記者会見の為、
ブローカーが大勢の脱北者をでっち上げたのだ。



ヨンスは、大使館の係員に尋ねる。
「お金はいつもらえるのでしょう」
係員は答える。
「お金は韓国に着けば一定額支給されます」と。
話が違う.....
「あの男性に会わせてください!」
ヨンスは要求する。
しかし係員は、その男性が誰であるかも、
金の話も全く知らないと伝える。
驚愕するヨンス....
「手を貸してください。助けてください。
妻が病気なんです。しかも妊娠していて...」
だが、係員はどうすることもできない。
「でしたら、安全にここから出してください」
ヨンスは頼み込む。
しかし係員はそれもできないという。
「ここを出れば、すぐさま公安に逮捕されます」と。


騙されたことに憤るヨンス。
金も貰えず、北にも帰れない。
「公安に捕まっても、北に帰る!」
ヨンスは叫びながら、大使館を出て行こうとするが、
仲間たちが必死に引きとめる。

母を失ったジュンは、
家財一式を近所のおばさんに売ってもらう。
「たいして、お金にならなかったわ.....」
女性は、気の毒そうに言う。
(なんでジュンは礼の一言も言わないわけ?
韓国での話では、親しい仲で”ありがとう”と礼を言うのは
他人行儀だと聞いたことあるけど、ヤナ感じよね....)
ジュンは何も言わず、家を出て行く。
「あんた、行くあてあるの?」
女性は涙ぐみながら、ジュンに声をかけるが、
ジュンは何も言わずに去って行く。
(可愛くねーガキだ)
絶望の淵に突き落とされたヨンス。
すっかり気落ちしてしまった。
そこへ、仲間の老人が声をかける。
「ブローカーをみつけたぞ」と。
前回とは異なるブローカー。
北朝鮮にいる家族を、脱北させてくれるという。
これで家族を韓国に呼べる。
父の後を追い中国へ行く決意をしたジュンは、
国境付近で、孤児となったミソンと再会する。
ミソンは落ちているわずかな食べ物を必死に食べるほど
飢えていた。
ジュンはミソンに、腹いっぱい食べさせてやる。




ヨンスはブローカーに送金し、依頼する。
「妻は容態が悪く、食料ももう尽きたかと....」
ヨンスは急ぐよう頼み込むが、
最近は取り締まりが厳しく安易に動けないという。



ヨンスは妻の薬を買うために薬局に向かう。
薬剤師は、結核の薬ならば、保健所に行くように言う。
結核は、公費で無料で治療できると。
それを聞いたヨンスはあまりの北朝鮮との格差に驚きを隠せない。
薬を手に入れることすらできない北朝鮮に対し、
韓国では、無料で治療を受けられると?
ジュンはミソンと共に、国境付近で知り合った少年に案内され、中国との国境を越 えようとしていた。
しかし少年は、ジュンが持っていた金が目当てだったのだ。
「金をよこせ!」と、言い合いになり、
警備に見つかってしまう。
警備にみつかった途端少年は、ジュンを売ろうとする。
「脱北しようとしている者がここにいます!
父親も既に脱北しました!」
しかし逆に少年は、リンチを受け死んでしまう。
「お前ら出て来い!」
警備らに言われ、ジュンとミソンは黙って出て行くしかなかった。
その頃、ヨンスが依頼したブローカーが、
ヨンスの家を訪ねていた。
しかし、家はもぬけの殻だった。
ブローカーは、隣りの女性に事情を聞く。

ジュンとミソンは収容所に入れられた。
そこでは、妊婦の腹を「どことの雑種だ!」と言って蹴るほど、人間的扱いはされない。
「祖国よりも、空腹を満たすことが大事なのか!」
と、子供も容赦なく蹴り倒される。
ジュンが、「亡命したキム・ヨンスの息子」だと知らされると、
「お前が、反逆者の息子か」と、侮辱される。
「僕の父は反逆者ではありません。将軍様から勲章も頂きました」と、ジュンは勲章を差し出す。
「こうして恩恵を受けても、南に逃げるのか?」
と、看守は勲章を投げ捨て、ジュンを蹴り倒す。

雨の降る寒空の下、皆が寒さに震えている。
ジュンはミソンに尋ねる。
「死んだ後、父さんと母さんと会えるってほんと?」
ミソンは震えながら答える。
「うん。そこはお腹もすかず、痛みも感じない、
そんなところだって」
ジュンは、ボソリとつぶやく。
「でも、雨は降ったらいいな」と。
韓国に亡命したヨンスは、皆が賃貸アパートを借り、
人並みの生活を始めたのに、
たった一人工場の倉庫に泊り込み、金を溜め込む。
そして、家族のため沢山の栄養剤を買い込んでいた。
そんなヨンスを工場長は見かねる。
「また買ったのか?まだ送れないというのに。
毎日、金ばかり使って」と。
着たきりすずめのヨンスを諭す。
「その服を捨て、新しい服を一式買え。
賃貸アパートを借り、こうして倉庫に泊り込まず、
そんなに切り詰めるな」と。
「自分一人が贅沢しているようで....」
ヨンスは言う。
ミソンは、悪環境のせいで、背中におできができて、
痒くて仕方が無い。
それを見かねたジュン。
おできには”ねずみの皮がいい”と聞くと、
ねずみを捕らえ、こっそりミソンの背中に皮を張ってやる。



ヨンスは、ジュンのために、サッカーボールと、サッカーシューズを買いに出かけ ていた。
そこへ、ブローカーから報告が入る。
妻のヨンファは、既に亡くなられた。
それを聞いたヨンスは、驚愕し、言葉を失う。

ヨンスはその夜、酒に溺れる。
「イエス・キリストは、韓国だけに住むのか?
世の中、こんな不公平でいいのか?
なぜ神がいるなら、北朝鮮を放っておくんだ!」
ヨンスは、工場長相手に怒鳴り散らす。

(北朝鮮の国民は、真実を知らなすぎるわよね.....
放っておくのは神ではなく、北朝鮮の権力者なのに)
ミソンが、背中が痛くて動けないと訴える。
お腹も痛いと。
ジュンは、ミソンの背中を見て言葉を失う。
よくなるどころか、ウジまで湧いている.....
「何か間違ったの?」
ミソンは尋ねるが、
ジュンは「間違ってなんか...」と、否定する。
ジュンはミソンを自転車の後ろに乗せてやる。
心地いいとミソンは喜ぶ。
「このまま天に行けたらいいのに...」
ミソンはつぶやくが、本当にそのまま息を引き取ってしまう。


ミソンの遺体は、まるで物のように引きずられ、
転がされる。

その頃、ブローカーはジュンの居場所を突き止め、
賄賂を渡し、ジュンを収容所から連れ出す。

豆満江の国境も、監視に賄賂を渡し、黙認させる。
無事、国境を越えるジュン。




ジュンは、現地のブローカーの元で、
新しい服に着替え、たらふく食事を取った。
そしてブローカーはジュンを呼ぶと、携帯電話を渡す。
「父さんからだ」と。
電話を代わると、相手はまさに父ヨンス。
父の声を聞いたジュンは、泣き出す。
「父さん、僕が悪かったんです。
父さんとの約束守れなくて.... 母さんが......」
ジュンは、ワンワン泣き出す。
それを聞いたヨンスも胸が痛み、涙が止まらない。
ヨンスはジュンを力づける。
「ジュン、泣くな。心配するな。
おじさんの言うことをよく聞けば、父さんにすぐ会える」
ジュンは「父さん、すごく会いたい...」と、泣く。
ヨンスも、胸が張り裂けそうだ。

ヨンスは、ジュンのために買ったサッカーボールや、
栄養剤をバッグに詰め込む。
明日には、ジュンに会える.....



モンゴルのウランバートル空港。
ヨンスは出国手続で足止めを食らう。
ジュンのために持参した栄養剤に、
麻薬の疑いがかかったのだ。
ヨンスは、事情を聞くため連れて行かれてしまう。






その頃、ジュンらの一行は、
中国とモンゴルの国境付近にいた。
間にある鉄条網を越えてください。
それを越えたら、中国側は何も手出しできません。
ブローカーはそう説明し、
一人一人に水と食料、そして、モンゴル語で書かれた
プレートや手紙を渡す。
「北朝鮮から着ました。韓国大使館に連れて行って下さい」
それを見せれば、後はモンゴル側が全て処置してくれると。

しかし、ブローカーが去った後、
すぐさま中国の警備隊がやってくる。
脱北者の一人が、流暢な中国語で話しかける。
「兄弟たちが砂漠が見たいと、黒龍江から来たと」
警備員も、脱北者の言葉を信じかける。
しかし、同行者の中に一人問題のある女がいた。
脱北する際に、息子を銃で撃たれ亡くし、
半狂乱の精神患者になってしまった。
精神患者の女は、枕を息子だと思い込み、
ジュンも息子だと思い込んでいた。
女は、警備隊が持っている銃を見ると、
脱北した際の記憶が蘇る。
「逃げなさい」
と、ジュンに小声でつぶやく。

そして女は、警備隊の銃に掴みかかる。
女を制止しようとする同行者たち。
警備員と女らは、もみ合いになる。
ジュンは一人全力疾走し、逃げ出す。
国境の鉄条網も、無事越えるジュン。
その頃ヨンスは、空港内で身柄を確保されていた。
栄養剤の疑惑は晴れたものの、偽造パスポートだったことが明らかになってしまったのだ。
臨時のパスポートが出るまでは、空港から出国はできないと、大使館職員に諭される。
いずれにしても、ここを出て国境付近に行ったとしても、
モンゴルの広大な地のどこを越えてくるかわからない。
行っても会える可能性は低い。
ジュンが国境を越えれば、必ずここに送られてくる。
ここで待つことが得策だと。
その頃ジュンは、
広大なモンゴルの地を黙々と歩いていた。
車が通るのを発見し追いかけるが、
追いつくことすらできない。







夜がやってきて、ジュンは砂が吹き荒れるモンゴルの地で、眠りに落ちた。

ヨンスは、予想外のジュンとの対面となる。
まとめられたジュンの荷物。
その中には、妻ヨンファの指輪もあった。

横たわるジュンの遺体に頬擦りするヨンス。
今まで、どれだけ苦労してきただろう.....
自分が約束通り戻れなかったから....
ジュンは苦しみの末に、死んでいった.....
ヨンスは、ジュンを埋葬した墓の前で、激しく嗚咽する。
胸が張り裂けそうだ。
韓国に戻るため、飛行機に乗車しようとしたヨンス。
その時、「아버지(アボジ:父さん)」と、ジュンの声が...
一心不乱にジュンの姿を追い求めるヨンス。
そして、それは幻だと悟り、呆然とする。
その時、突然激しい雨が降ってくる。
ジュンが、大好きだった雨。
雨に打たれながら、ヨンスは感じる。
ジュンの存在を。
亡くなったジュン、妻のヨンファ、ミソン、犬のペッグ....
皆が再会し、一緒に楽しげに過ごす風景を思い描くヨンス。

END



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