クロッシング Crossing |
原題:クロッシング 크로싱(クロッシン) <2008> |
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監督 | キム・テギュン(金泰均) | <1998>ファー
スト・キス、<2001>火山高、
<2004>オオカミの誘惑、<2004>20のアイデンティティ、 <2006>百万長者の初恋、<2008>クロッシング 祈りの大地 <2009>彼岸島(日韓合作)、 <2010>裸足の夢 |
出演 |
チャ・インピョ |
<1996>
アルバトロス、<2002>アイアン・パーム、<2003>ボリウルの夏、<2004>木浦は港だ、 <2006>韓半島、<2007>クロッシング 祈りの大地 |
【レビュー&ネタバレ】 |
2008年6月韓国公開。観客動員数は、約94万人。 2008年10月24日。第21回東京国際映画祭「アジアの風」部門で上映。 2009年春には、「クロッシング 祈りの大地」として、日本公開。 またまた再上映が決まりました。 今度は原題のまま「クロッシング」として、4/17(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開されます。 北朝鮮は、日本とは切っても切れない国であり、 今現在も、様々な物議を醸し出す国である。 散々ニュースや話題に取り上げられる国であるので、多少なりとも、北朝鮮の現状は皆さん御存知でしょう。 しかし、この映画は、ニュースやなどでは取り上げられない北朝鮮の国民の現状を、 「映像」という伝わりやすい手段にて、訴えかけます。 この映画は、2002年に北京のスペイン大使館へ逃げ込み脱北した25人の事件をモチーフにしています。 但し、脱北に関わるブローカーなどの話はフィクションです。 あくまでも、自らの意思で脱北した事件です。 この事件は、かなり大騒動となり、その後、中国当局、北朝鮮国境付近の監視が厳しくなり、 脱北者の数は激減しているそうです。 (脱北する人が減ったのではなく、捕まる人が増えたとも言えるのかもしれませんが....) また、この映画には、”盗作疑惑”が浮上し、上映禁止訴訟が行われました。 ユ・ジュサン氏の一代記を、イ・グァンフン監督が”人間の条件”という映画として脚本を制作したが、 クロッシングの内容が、ユ・ジュンサン氏の脱北過程を描いていると、訴えたのです。 結局は、訴訟は棄却され、上映が決まりましたが。 「こうした現実、事実があることを知り、胸が痛んだ。これは作られるべき作品だと思った」と、 キム・テギュン監督は語っています。 「今この瞬間にも、国境を越えようとしている人、食糧がなく餓死している人、脱北の途上で命を落としている人がたくさん いる。そうした人々に関心を持ってほしい」と、訴えた。 「今、作られるべき作品であり、このような状況を海外にも知らせる必要がある」 というように、ホン・ジヨンプロデューサーも考えたのでしょう。 実際、この映画を見たら、否が応でも考えさせられ、北朝鮮の現実に関心を持つことでしょう。 監督やプロデューサーの意図は、必ず観客に伝わることと思います。 そして、もう一つ注目すべきことは、 ”他人の不幸を利用する人間”の醜さです。 ”北朝鮮”の真実だけではなく、人間の醜い側面、本性というものを感じずにはいられないでしょう。 「今、作られるべき作品」ということには、mocaも非常に同感です。 ですが、”面白い映画” ”感動する映画” とは、ちょっと違います。 感動や涙を求めるならば、遠慮した方がよいでしょう。 ”運命に翻弄される父子の悲劇”を描いておりますが、泣ける泣けないという観点から言えば、 かなり本人の感性に左右されると思います。 元々、キム・テギュン監督の映画は、どの映画も中途半端で楽しめません。 百万長者の初恋が、例えにはもってこいかも しれません。 この映画は、韓流の王道も王道、悲しいラブストーリーです。 ですが、この映画で泣けた方は、どれくらいいるのでしょうか? mocaは泣くどころか、シラケました。 この映画の”悲劇”も同様です。 あまりにもやりすぎて劇的すぎる上に、 キム・テギュン監督は、人の心の琴線に響くような映画を作るのが下手なようです。 ジュンの”雨好き”も、度が過ぎた伏線で、少しも感動しません。 この映画は、”楽しむ”映画ではなく、考える映画です。 現在の北朝鮮を知り、考えることが重要だと考える方には、 今までと違った北朝鮮の側面が見えるかもしれません。 評価の”名作”に”◎”をつけたのは、”名作”が好きな人には薦められる映画ということで、 決して”名作”ではありません。 いわば、”芸術作品”です。 重要な映画であることは間違いありませんが。 このような趣向の映画を好む方にとっては、かなり満足度の高い映画のようです。 但し、娯楽映画が好きな方は、不満だけが残るでしょう。 ”興行的成功は期待できない”と、誰もが思った映画。 それでも、この映画の制作費40億ウォンの約半分を投資した 大宇グループの元会長の息子キム・ソニョン씨のように、 この映画に”意義”を感じる人も、少なくないことでしょう。 ただ、北朝鮮の国民に、手放しで同情するのも考えものです。 支援、支援といったって、 現在の北朝鮮の体制では、権力のある者が横領、搾取するばかりで、 権力者だけを肥えさせることになりかねません。 この映画を制作するにあたって、キム・テギュン監督らは、 100人近い脱北者へのインタビューを入念に行っ た上で、事実に基づいた脚本を仕上げたそうです。 しかし、100人もの人間からのインタビューで得たエピソードを、 たった1組の家族の人生に詰め込んだら、 壮絶も壮絶、 リアリティーを追求するがために、逆にリアリティーを失う結果になったのでは? この映画はフィクションでも、”ありのままの現在の北朝鮮の国民の生活”を知るには、 かなりリアルに近いものがあると思います。 しかし、結果としては、かなり胡散臭いストーリーになってしまったのでは? ”クロッシング”というタイトル通り、とにかく父と子は徹底的にすれ違ってしまいます。 そのすれ違いぶりも、ちょっとやりすぎなんじゃ? と、残念で仕方ありません。 これだけ無情で残酷な悲劇なのに、全く胸に迫ってこないのは、mocaの感性が問題なのかしらね。 内容的にはともかく、 この映画では収容所の悲惨さや、国境付近を”物乞い”をして生きながらえる孤児たちの悲惨さを描いた 大変意義のある映画です。 北朝鮮の悲惨さと、恐ろしさを痛感できることでしょう。 それだけでなく、私たちが”豊かさ”と引き換えに失ったものも、見えてくるのではないでしょうか。 *** 北朝鮮で起きた食料危機により、200万人が餓死したことはニュースにもなりました。 (北朝鮮の人口は、約2300万人) まず、労働党、政府、軍、秘密警察の幹部など、権力を持つ者が食糧の横領を始めた。 だが、権力機関に所属していても末端の者には食糧が十分に行き渡ら なくなった。 こうして、各種機関の規律が低下した。 特権階層の人々でさえそのような状態にあるため、 途中で幹部に横領される一般国民への配給は一層厳しい ものとなり、配給が停止する地域が増加していった。 *** このニュースはわりと話題になりました。 ですが、肝心の北朝鮮の国民たちは、この事実を全く知らないのです。 それは、北朝鮮における”徹底した情報遮断”のせい。 外部からの情報を遮断することで、国民たちを労働党、政府らの思い通りにマインドコントロールできるわけ。 これは、皆さんも感づいていることでは? 北朝鮮では、テレビもラジオも新聞も、他国からの客観的情報が入らぬよう、遮断している。 テレビやラジオは、他国の番組を受信できないよう、あらかじめ周波数がハンダ付けで固定されている。 但し、2002年以降、韓国のテレビ放送を視聴する国民が急速に増えはじめた。 2002年の経済改革措置で中国製テレビなどが大量に流入したため、 当局による情報規制は事実上難しくなっている。 韓国からの電波が届く平壌より南側に位置する地域では、 テレビを買えば韓国の放送を自由に見られる状態になっているだけでなく、 総合市場の拡大により、テレビやビデオの商取引が増加している。 韓国のテレビ番組を録画した録画物にも、北朝鮮は敏感になり、徹底的に取り締まりを行っている。 資本主義思想や文化が流入してくれば、国民の価値観が多様化し、 旧東欧社会主義圏のように体制が崩壊する可能性があると考えているからである。 ミソンの父も、周囲に気を使いながらテレビを見ていたのは、徹底的な取り締まりがあるせいである。 *** こうして、北朝鮮という国は、国民をマインドコントロールさせ、 何が正しく、何が間違っているのか、徹底的に”偽り”を脳裏に刷り込んでいるのである。 食糧難になったことの真実も、国民たちは知らず、 配給されている食糧は、”将軍”という独裁者からの支援だと思い込んでいる。 実際は、他国からの食糧支援だというのに。 *** 食糧支援の筆頭国は、隣国である韓国である。 しかし、北朝鮮が韓国李明博政権との敵対的関係を深めるにつれ、食糧不足問題が深刻になってきた。 7月に韓国人女性が北朝鮮に観光に訪れ北朝鮮兵士に銃殺されたのを受け、 韓国国内での北朝鮮 に対する世論が冷たくなっていた。 また北朝鮮も、韓国李明博政権が北朝鮮に対する外交における強硬路線をとっていることを受け、 韓国からの直接の食糧支援 を拒絶した。 北朝鮮の過ちだらけの姿勢と政策というものが、よくわかりますね。 *** 国民が皆、水で空腹を満たし、飢餓で苦しんでいる。 手を差し伸べてくれない国を見切り、脱北者の数も増加した。 それでもまだ、金正日を”将軍様”と、神のように思い込んでいる国民もまだまだ多い。 あれほどの飢餓で、食料暴動が起こらなかったことも、それを証明している。 これは、戦前の日本と似ているのではないでしょうか。 ”天皇は神” そして、”国”のため、”天皇のため、「天皇万歳!」と死んでいった何も知らぬ若者たち。 日本も、教育などにより、マインドコントロールされていたというべきであろう。 本当に恐ろしい。 北朝鮮に今必要なのは、国民に”真実”を受け入れさせることではないでしょうか。 マインドコントロールから解き放ち、独裁国を許さない。 日本も、戦後の何もない状態から、今ここまで豊かな国へと成長しました。 何かといえば”核”を脅しに支援を要求する北朝鮮。 支援を受けながらでも、まず自らの足で立つことを覚えなければ。
チャ・インピョは、妻シン・エラと共に、韓国でも”ボランティア活動”や”寄付”などの善行で有名な俳優です。 今では、俳優業よりも、ボランティア活動に力を入れているそうです。 実際に、チャ・インピョ夫妻は、実子である長男の他に、二人の子供を養子として向かえています。 また、全世界の30人と親子の縁を結び、 最近でも、ハイチ大地震による復旧のために1億ウォンを寄付しています。 チャ・インピョは、一旦はオファーを断ったそうです。 「脱北者が、世界のどこでも歓迎されないように、この映画も歓迎されないのでは?」と。 しかし、”餓死した北朝鮮の子供の写真”を見て、この映画への出演を決意したそうです。 ↓ 結末までネタバレしますので、ご注意を ↓
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